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10月31日 水  秋情

 昨夜から久々の居職で、午後に起きる。
 夕食の買い物に、サンマの天ぷらを求め、駅前から某SCへの無料送迎バスに乗ってみる。行く先は、ダイエーやトイザらスやユニクロやシネコンを擁する大SCだ。電車の隣駅よりも近いので、普段なら歩いてしまう距離だが、先週から派遣続きだったためか、脚が「オラとうぶん動くの嫌《や》んだべ」と主張するので。
 狸穴を出るときは、駅ビルの総菜屋でサンマのフライを買おうと思っていたのだが、原料の入荷が少なかったのか、売り切れだった。解凍サンマや干物は、今日は安くない。焼き物は、もとより安くない。QQショップの冷凍干物も、なぜか売り切れ。どうせ冷凍物なのだから、流通量はそんなに変動するまいと思うのだが、まあ、海のサンマさん方や漁師さん方にも、色々都合があるのだろう。
 気が向けばいつでも定食屋でビール飲みながら生サンマ焼定食を食える身分に、いつかは戻りたいものである。

 送迎バスの中は、お年寄りが過半数だが、主婦も高校生も混じっている。大半女性で、いいおしりをしている。それにしても女性のおしりというものは、なぜああも蠱惑的であるか。尾てい骨そのもののように小さいか、KONISIKI級にでかくない限り、やはり無差別に触れて、その感触を確認してみたい誘惑にかられる。淫欲とは無関係に、ただふにふにと愛でてみたいのである。狸が電車の痴漢などをひとり残らず線路に並べて轢死させてしまいたいと思うのも、被害者の感情を鑑みるとともに、自らその触欲をあえて抑えて生きているからであり、以前にも記した赤塚不二夫先生の造語「なんてわるやましい奴だ!」、そんな心の叫びゆえである。

 サンマの天ぷらは、無事に105円で入手できた。帰途の送迎バスでも、なんとかおしりたちの誘惑に耐えた。これで今夜は心安らかに、パソでなんかいろいろしたり、某投稿板で更新したばかりのたかちゃん物を再チェックできる。


10月28日 日  寡聞にして

 NHKの『今日のお料理』のテーマ音楽が、あの冨田勲氏であることを、今日の朝日新聞の『天声人語』で初めて知った。氏が25歳の時、放送開始前日に依頼を受けて、即座に作曲したのだそうだ。あの『新日本紀行』や、それ以上に『ジャングル大帝』や『キャプテン・ウルトラ』や『マイティジャック』や、さらに黎明期のモーグ・シンセサイザーを駆使してドビュッシーのクラシックをアレンジした『月の光』などで、幼時から青年時代にかけて狸の情操に多大な影響を与えてくれた、あの冨田勲氏がなあ。きっと、もうみんな知っていることだったんだろうなあ。半世紀も生きて今頃知るなんて、恥ずかしいよなあ。
 今日は全休だったのだが、たかちゃんたちと遊ぶのに忙しく、ちっとも暇がないので、これにて幕。


10月27日 土  許してください→地上の星

 残業3時間、夜勤派遣が昼近くまで続いてしまい、台風接近の風雨の中、「あーもーめんどくさいから買い物省略、夕方までは止んでるだろう」などと、そのまんまずるずる狸穴に這い戻ったのがまずかった。一眠りして夕方目覚めれば、なんと大暴風雨の渦中なのである。しかし、食う物は何もない。ラーメンの一袋すら残っていない。おまけに金がない。いや、口座には僅かに残っているのだが、財布は空に近い。これはどーしても、外出しなければならないのである。
 狸穴を出たとたん、傘がオチョコになった。「なんだこのバカヤロウ。たかが天気の分際で何様のつもりだバカヤロウ」などと天に向かって毒づきながら、オチョコをたびたび修正しつつ、出金機もあるスーパーに到着。びしょ濡れながら一安心して買い物ののち、一歩店を出たとたん、傘がくの字になった。一瞬に、骨が折れてしまったのである。一本しかない貴重な傘が、再起不能になってしまったのである。泣きながら店内に戻り、ビニール傘購入に大枚500円を余分に費やし、「すみませんお天気様すみません。もう二度と悪口なんか言いません。お願いですから許して下さい許して下さい。はて恐ろしき、執念じゃなあ」などとつぶやきながら、傘をかばいつつ狸穴に帰着。大自然の猛威の中では、激流に翻弄される一葉の病葉《わくらば》のごとく、はかない存在の狸なのであった。

 昨夜(今朝?)のバイトは、医薬品用容器の検品補助で、軽装でOKという事前情報とは別状、その軽装の上にツナギ状の防塵服を着せられ頭もネットや防塵帽を被せられ、汗っかきの狸は、蒸れに蒸れた。同じ派遣仲間でもベテランの方々は検品そのものの担当なので、目と手を中心に上半身しか動かさないが、スポットの狸たちは、検品後の容器が半自動で収まったポリ袋を整理梱包しラインに流す、そんな作業なので、やっぱり力を使う。それでもそのベテランの方々の検品する有様を見ていると、やっぱり力なんて馬鹿でも出せるが技術職は大変だよなあ、と、感心することしきり。
 何十個も重なった尺取り虫状の半透明ポリ容器(出来合のプリンのカップに似ているが、なんじゃやら多層構造のありがたいポリマー容器らしい)の両端を一度に両手ではさみ、頭上斜め前の照明に透かして、異物の混入や層のムラがないか(たぶん)を、くねくねとチェックする。やはり人によって熟練度に差があり、多少ぎこちなく何度か持ち直したりバラしたりして疑わしい部分をチェックする方もあるが、慣れた方たちの場合、それこそ手品師の扱うトランプのように、細長く重なったカップが全体的にはあくまで緩やかな山を描きながら右から左へ移動、しかしちょうど眼前あたりでは、ほどよくバラケて個々に透過チェック可能、そんな早業をえんえんと続けている。同じ元締めからの派遣である限り、時給にそれほどの差はあろうはずはない。能率給でもないし、派遣社員に厳重なノルマがあるわけでもない。だからその技術は、あくまで本人の矜持であり愉悦なのだろう。プロジェクトX的な地上の星は、どんな底辺にでも光っているのであり、それが、中国などにお株を奪われそうなこの国の産業を、なんとか高レベルに保っているのだ。
 ほんの僅かでも血痕反応が出るとロットごとキャンセルを食らうというので、事前事後にずいぶん入念な注意と両手チェックを受け、手袋をはめ消毒もしょっちゅうやったが、スポットの狸たちはテープカッター等を扱うため、まったく気づかない内に針でついたような微細な傷ができており、「なぜすぐに報告しなかった」と、現場責任者の方にかなり叱責された。まあ容器そのものには全く触れていないし、血の出た形跡もなかったのでOKだったが、その叱責もまた、当然そうあるべきなのである。そうした末端の現場の方々のみならず、その容器に薬品を入れる製薬会社の経営者や厚生省の役人まで『あるべき意識』=『正気』を保っていれば、薬害エイズや薬害肝炎だって生じなかったはずなのである。


10月25日 木  ちゅばちゅば

 田川氏のmixi日記で、こんな歌や映像を知った。現在の狸穴の、地元のローカルTV局が、なんかの番組で流している歌らしい。とても愉快でかわいい。たまたま成りゆきで住んでいるだけの狸でも、思わず地元愛に萌えたりする。
 ♪ちゅばちゅばちゅっちゅっちゅ〜♪


10月23日 火  食性

 甘木様のHPの日記で、『ミモレット』という食物名を知り、なんじゃやら高価で高栄養の食品らしいので、食い意地のはった狸はさっそく検索をかけて正体を確認する。すると、なんじゃやら特別のダニさんをたからせることによって美味に発酵する、ナチュラル・チーズと判明。そのダニさんたちが食べてカサカサになった外皮部分は食べず、内側のナマっぽい部分を食べるらしい。ダニさんたちの食べ残しをいただくわけですね。オレンジ色の発酵具合はいかにもうまそうで、死ぬまでに一度は食べてみたいが、今のところQQショップのプロセス・チーズしか買えないので、まあ別にあわてて食わんでも先は長いからな、とつぶやき、その後トイレでこっそり泣く。

 狸の食性にチーズが含まれたのは、小学校に入ってからと記憶している。給食に出たわけではないですよ。それどころか、ご近所のご家庭でも、チーズなどというモダンなシロモノは食卓に上らなかった。まあお金持ちのご家庭や都会では、昔からあったのだろうけれど、少なくとも山形の一般家庭では、まったく見かけなかった。給食にプロセス・チーズが出現したのはずっと後の話である。
 なので、自分ちの冷蔵庫の中に、母親がパート先の肉屋からもらってきたらしいプロセス・チーズの切り身を見つけた時は、「おや、なんで冷蔵庫の中に石鹸が入っているのだろう」と、首をかしげた。で、それは石鹸ではなくチーズという食品だと教えられ、おそるおそる口に入れてみると、なにせその食感や味そのものがまったく未知のシロモノであったため、「きっと石鹸を食うと、こんなエグい味なんだろうなあ」と、すぐに吐き出してしまった記憶がある。狸の食性は保守的なのである。まあ、じきに西洋料理系になかなか合う味覚だと悟り、給食にも登場して、好物化したのだけれど。

 ふと思い出したのだが、狸の生まれた1957年(昭和32年)に黒磯駅で売り出され2005年に姿を消してしまった、『九尾すし』という駅弁をご存知だろうか。有名な駅弁だったので、検索すればどこでも画像が見られる。
 なぜ有名だったかと言えば、九尾の狐の帰化性や摩訶不思議さを表現するため(たぶん)、発売当時には画期的な洋食系の寿司ネタを一部に使っていたからで、それはチーズやスモークサーモンや焼き豚である。
 特にご飯とチーズという取り合わせを、ある意味ゲテに近い扱いで紹介している、当時の旅行雑誌を見たことがある。今ならグラタンやなんかで、ライスとチーズの相性は貧乏人でも知っているが、当時はそれだけチーズそのものが一般的ではなかったのだろう。もっとも、1963年(昭和38年)から8回以上も、天皇家が那須御用邸御滞在のおりに昼食として望まれ、浩宮様は那須高原へのピクニックでもお弁当にされたと1967年(昭和42年)の記事にあるので、さすがに天皇家ともなると和洋折衷は得意だったと思われ、製造元でもずいぶん宣伝になって、チーズのすしを味わう旅行者も増えただろう。

 ところで、ミモレットってどんな味がするんでしょうね。


10月22日 月  なんかいろいろ

 また口紅容器製造ラインに入る。三度目になるとさすがに慣れてきて、脚が棒になったり腰がコンクリ固めになったりするのはあいかわらずだが、精神的なストレスは皆無に近い。要は目と手先を直結させるだけの単純作業だから、まあ人によっては非人間的作業なのだろうけれど、狸の場合は、脳味噌だけ別個に遊んでいればいいのである。たかちゃん、いや、ゆうこちゃんたちの新章の冒頭部分など、色々構想を練った。
 棒とコンクリを軟化させるため、帰宅後また銭湯に行くと、遅い時間だったのでさすがにろりはおらず、その代わり面白いお湯があった。その銭湯の薬湯コーナーでは、いつもは大手メーカーとタイアップしているらしく日替わりで『旅の宿』の入浴剤を使用しているのだが、今日に限っては、なんじゃやらコーラのように黒いお湯がブクブクと泡だっている。濃口醤油ほど黒くはないが、薄口醤油よりも黒い。そして、野原の匂いがする。なんじゃこりゃ、と思って看板を見ると、いつもなら『旅の宿』の広告プレートが差し変わるスペースに、マジックの手書きで『ラベンダー』と記されている。
 ラベンダーって、こんなに黒い花だったか? それに、ダイソーの入浴剤のラベンダーだって、もうちょっと花っぽい香りがするぞ――そう思いながら、その自分の手脚も見えないような黒いお湯に浸かる。すると湯船の角に、なんじゃやら枕のような布袋が、浮き沈みしているのに気づいた。たぐりよせていじくってみると、じゅくじゅくと黒い汁が滲み出る。どうやら化学的な入浴剤ではなく、モノホンのラベンダーを乾燥させて、詰めてあるらしい。考えてみればもともと紫っぽい花だから、干して煎じれば、こんな真っ黒な色と野の匂いになるのだろう。
 面白がって長湯したためか、意識がやや浮遊状態になり、帰宅後炊飯器の水量を間違え、おかゆを作ってしまった。鯖の塩焼きと目玉焼きと千切りキャベツと4袋100円の豚汁に、固めに炊いた大盛り飯――そんなビンボな労働食を食らおうと思っていたのに、いきなり病人食が出来てしまった。まあ消化にいいから、いいんですけどね。でも、腹持ちはよくないわなあ。

 夜中、おかゆ腹で、某投稿板のたかちゃん物を更新。読者の方々にとって、消化にいい読み物になってくれれば幸い。

 ところでメイルマン様が、ご自分のブログで、なんじゃやら狸の旧作ショート『カワイソウナカワイイボウヤ』を、微に入り細に入り分析してくれている。本編より面白いので、本編の打鍵者としても本望。ここで読めます。


10月19日 金  生活と精神

 柚希ちゃん刺殺事件の続報を聞きながら、「あああああ、また無辜のろりが、野放しのキチピーの犠牲か?」と悶え苦しむ一方、なんじゃやら大騒ぎしている赤福の製造日偽装などは、「別に誰も腹こわして死んでないんだからいいじゃん」と、かえってその老舗の古き悪き体質に、懐旧の情を抱いたりもする。そしてごく一部のオタにしか通じない話題の上にいささか旧聞だが、「祝! 『はるはろ!』開発再開!」などと、仮想方向への逃避に走る自分もいる。柚希ちゃんの命が荒川工さんのクドくてせつないギャグ世界などより100億倍重いのは確かでも、杓子定規でもったいないおばけが大量発生しそうな食品衛生法など、久々のことみようじさん原画に比べれば、正直どうでもいい。しょせん社会問題などという現実からはすでに乖離してしまった、愚劣なろり狸なのである。生きていてすみませんすみません。

 で、督促状をころりと失念していたら、ガスを止められてしまった。電気を止められてしまうと、まだスタンドアローン化していない電脳狸は明日の食事にも困るが、ガスなど停まってもとりあえず生活には困らない。自炊は炊飯ジャーと電気ポットとレンジとオーブントースターがあれば充分だし、風呂はとりあえず銭湯と沐浴剤でしのげる。まあ毎日入浴しないといずれ発狂する因果な体質の狸なので、来週の正業(?)の振込から、即入金せねばなるまいが。

 自分の生存形態が日々縮小して行くにつれ、精神もまた摩耗して――行けば人生かえって楽なんだろうけれど、行かないもんですね、これが。暇が減るので打鍵にまとめるペースこそ落ちまくっていても、脳内のろりたちは、あいかわらず大騒ぎを繰り広げていたりする。


10月17日 水  食うための仕事

 派遣を共にしたお若い方から、面白い話を聞いた。多数の派遣会社に登録していると、中にはなにやらウロンな仕事を請け負う中小業者があり、ある日、こんな話が携帯にかかった。『○○県の田舎で二日間、定員20名、1日7時間の軽労働で残業なし日給2万、宿泊費・食費・交通費は会社持ち。風光明媚な田舎で楽に稼ごう』――作業の詳細は不明だが、異例の好待遇なので、たちまち男女20名の若者が集まった。で、現地で彼らを待っていたのは、工場のような大鶏舎に隣接する作業小屋と、なんじゃやら細菌パニック映画に出てくるような全身白衣。鳥インフルエンザがらみで、大量の鶏を処分する仕事だったのである。ただひたすら鶏の首をヒネるだけだから、肉体的には確かに『軽労働』なのだが――2日間きっちり勤め上げたのは、5人だけだったそうだ。
 その若者は最後まで稼いだそうで、とにかく精神的にアレだったと、心底げっそりと話してくれたのだが――狸などは、「おうおう、そんなうまい話があったのなら、自分もぜひ稼ぎたかった」などと、思わず垂涎してしまった。
 別に狸に生き物をシメる趣味があるわけではない。しかし狸の幼時には、自分ちの庭で飼う鶏をシメて食う、それは当然の行為だった。狸の父は地方公務員だったので庭もほとんどなかったが、半農の同級生の家などではしばしば見られる光景であり、シメるのではなく刃物で首チョンパされた首なし鶏が、文字通り死にものぐるいで庭中駆けまわる、そんなケースもあった。死んだことのない食肉は、この世に存在しない。
 まあ食われもせずにただ扼殺されるインフルエンザの鶏は確かに不憫だが、公園の鳩を「平和平和」と可愛がった直後にケンタでにこにことフライドチキンを頬ばる人々を見ていると、やはり『ヒネる』ことの実感もひとつの素養として必要なのではないか、そんな気のする今日この頃である。そういえば、ビンボなのでケンタにもずいぶん行ってないなあ。
 ……以前にも記したが、公園の鳩はシメて食うと罪になるのだろうか。


10月15日 月  猥褻

長崎県諫早市の小学6年の女児(12)が大阪市のマンションに連れ込まれた事件で、未成年者誘拐容疑で逮捕された大阪市福島区の会社員、坂本優介容疑者(20)が長崎県警に任意同行を求められた際、一緒にいた女児が「長崎に帰りたくない。お兄ちゃんは悪くない」と捜査員に話していたことが分かった。女児が保護されるまでの8日間、女児は自由に行動できる状況にあったが、県警は坂本容疑者がわいせつ目的で女児をマンションに連れ込んだ可能性もあるとみて調べている。  
 女児は6日、家族あてに「捜さないで下さい」と書き置きを残し、現金1万6000円を持って自宅を出た。待ち合わせ場所のJR小倉駅(北九州市)で坂本容疑者と落ち合い、マンションに連れ込まれたという。
 坂本容疑者は、女児を連れ込んでいた13日までの8日間、通常通り会社に出勤。会社からの帰宅後や休日はオートバイの後ろに女児を乗せてドライブなどをしていたという。発見、保護された際も、2人でオートバイに乗ってマンションに帰ってきたところだった。
 2人は、女児が06年4月に開設した少女漫画のブログを通じて知り合った。「周りが自分のことを理解してくれない」と、家族に不満を持っている内容の書き込みに対して、坂本容疑者が相談に応じていたという。坂本容疑者も07年7月までマンションで母親と同居していたが、けんかが原因で母親は近くの自宅に戻っていた。
 2人はブログやメールで近況をやり取りするうちに親近感を持ち、坂本容疑者が「大阪まで遊びに来ない?」などと誘ったという。
 坂本容疑者は調べに対し「誘う前から12歳と知っていた」などと供述。県警は15日、坂本容疑者を長崎地検に送検した。【阿部弘賢、柳瀬成一郎】 10月15日15時3分配信 毎日新聞


 詳細が不明なのでまだアレなのだが、まあ県警さんとしては意地でも見せしめとして『わいせつ目的』にしたいだろうし、その20歳の青少年がインポテンツでもない限り、ナニしたい願望は当初からあったはずだ。そもそも性交によって繁殖する生き物は、皆、猥褻だ。狸としては、共感を介した合意の上での猥褻は、純愛でもあり得るだろうと思う。県警の方々も、暴力や金銭を介した猥褻とは、区別して当たってほしいものである。

 ところで、児童買春の摘発はますます盛んだが(ほとんど見せしめ効果を狙ったケースなのは気になるが)、あいかわらずろりのTバックやTフロント、それもろり親爺そのものの狸でさえ反吐をつきたくなるような腐った根性見え見えの代物が、合法的に出回りまくっているのはなぜなのだ。
 どうも近頃この国の市民は、なんだか首から下はがんじがらめの緊縛状態で、首から上だけが必要以上に放任されている気がする。吠えるのだけは、自由。


10月13日 土  狸の日常

 ゅぇ様から、日常バトンというのを受け取りました。

寝起きはいい?悪い?
昔は悪かったのですが、近頃は老狸化したので熟睡よりも夢うつつ状態が多く、ちょっとした物音でも「ぎく」などとすぐ目覚めます。

最近の平均睡眠時間は?
もー仕事によってバラバラですが、平均すれば6〜7時間。

朝起きて まずはじめにすることは?
「うみゅみゅみゅみゅう」などと、うなる。

髪の毛のセットの時間は?
癖毛なので、電子レンジで温めた蒸しタオル(チンタオル?)を、3分ほどかぶる。

家をでる前に持つ必需品
帰宅するまで消費の許される最低限の小銭。

カバンの中身は?
もー仕事によってバラバラですが、大別すればDVD−RAM、あるいは軍手にカッター。

朝起きてから家出るまでの時間は?
15〜20分くらい。

好きなものは最初に食べる?後から?
昔は後まで楽しみにとっときましたが、最近は精神的余裕を失い、あたりを警戒しながらいきなしがふがふと。

家に帰ってまずすること
顔を洗う。

家の冷蔵庫にかならず入ってるもの
えーと、必ずとなると――野菜ジュース?

自分の本棚ですきな一冊
選択不能に近いですが(もはや精神的および物理的に売却不能な本しか残ってないので)、強いて一冊だけ選ぶとすれば、創元文庫の『吸血鬼ドラキュラ』でしょうか。小学校の頃、生まれて初めて読破した大人本なので。……いや、やっぱし『ムーミン谷の冬』……いやいや、高橋克彦先生の『霊の柩』……いやいやいや、森敦先生の『月山』……やっぱし選べません。
 
カーテンの色は?
ベージュの細かい葉っぱ柄。ただし、現在はヤニで薄茶色。

よく見るTV番組は?
定期的に観ているのは、『なんでも鑑定団』くらい。

入浴時間は?
内湯30〜40分、銭湯だと小一時間。あぐらかいてボーっとするか、脚を伸ばしてボーっとするかの差。

風呂上がりのかっこうは?……タオル?
狸なので、毛が乾くまでは全裸。

寝具はベッド?ふとん?
せんべいぶとん。

最長夜更かし記録は
夜更かしというか、昼更かし(?)というか……。おおむね36時間が限度です。

お疲れ様でした 次に回す人をどうぞ
♪ じゃん、じゃじゃん、じゃんじゃんじゃ、じゃじゃん――い〜まは〜も〜お〜だれ〜もお〜〜 ♪ ……いや、ほどよく愛してはいるんですけどね。


10月12日 金  花はどこへ行った

 こっちの時間条件だと、そこしか空きがないと言うので、おとついと同じ工場の化粧品部品組み立てでまた一日立ち続け、脚が棒になる。今日はなんじゃやら捻ってねじ込む別の部品だったので、脚が棒になるだけでなく、肩までコンクリで固まったようだ。
 帰宅後、もしやもしやに引かされて、棒脚とコンクリ肩をずりずりと引きずりながら必死に銭湯に這いこむと――残念、ろりどころかお父さん世代もほとんどおらず、ほぼ敬老会状態であった。同じ時間帯だったのになあ。まあ、おとついがよほど幸運だったのだろう。公の場における全裸幼女のM字開脚は、やはりもはや絶滅危惧種なのだ。ああ、世も末じゃのう、ぶつぶつぶつぶつ。
 公園で丸くなって毛皮を乾かしたあと、松屋で豚焼肉定食大盛りに牛皿追加さらにビール付き、などという大散財をしてしまう。ろりと混浴できなかった虚しさを、食でカバーしようとしたわけである。旨かったのだが、おとついの半額フランクフルトや輸入発泡酒ほどの充実感は得られなかった。
 狸は味覚までろりに従属するらしい。

 ♪ Where have all the flowers gone〜 Long time passing〜 ♪


10月10日 水  銭湯

 ♪ 今日の仕事はつらかった〜 あとは焼酎をあおるだけ〜 ♪ などと山谷ブルースを歌うほどではないが、なんかのマチガイで化粧品容器製造工場のラインにひたすら立ち続け、口紅の一番内側の金属筒に、ひとつ外側の繰り出し用プラスチック部品をはめ込む、そんな超単純作業を延々8時間も続けると、なんじゃやら帰りの電車でも、やたらとモノにモノをはめ込みたい欲求にかられ指がうずき、脚は倉庫作業よりも棒のようにカタマり、結局やっぱり山谷ブルースを歌いたくなったりもしたりする今日この頃、カタマった脚の伸ばせる入浴を求め、久々に銭湯へ。立ち仕事の後は、効くんだこれが。
 で、なにかとキナ臭い昨今、絶滅したと思われていた『お父ちゃんといっしょにお風呂屋さん幼女』が、なんとまだいてくれたのである。感動した。もっとも現在の狸の視力は、近眼と乱視に初期老眼が加わり、朧気な視界を無邪気によぎるちっこい肌色の可憐な生き物が見えるだけなのだが、幼女特有の脈絡のない身辺雑記や発作的意味なし発言を聞いていると、我が心身をドンヨリと濁らせていた汚泥の渦が、ひととき静まるようだ。まあ、単に心の底に澱として沈殿するだけなのだろうけれど。思わずロッカーに置いてきた眼鏡を取りに戻りたくなったりもするが、それをやったらいかにもアヤしく、最悪捕獲されて正体がばれ狸汁にされてしまいそうな気もするし、そこまで行かなくとも、その今どき貴重な鷹揚パパのほうが警戒して、『お父ちゃんといっしょにお風呂屋さん幼女』を絶滅させてしまう危険性もある。

 子供の頃は、田舎ゆえにどんなビンボな家でもたいがい内風呂があり、銭湯はほとんど見かけなかった。それでも風呂なしアパートはわずかに存在するので、市内にはいくつか銭湯があり、内風呂が壊れたり風呂場を改築している特など、何度か銭湯に入った記憶がある。小学校に入ったか入らないかの頃で、その頃は、男湯に入るろりも女湯に入るショタも、けっこう多かった。しかし、その頃の狸はちっぽけな小狸ながら、なぜかたいへんイロケづいてしまっており、父親といっしょに男湯に入りながら、むしろ隣の女湯に気を惹かれるようなヤな餓鬼だったので、すぐ近くでM字開脚をしているろりなどがいても、ほとんど気にしなかった。以前にも記したように、狸がろりに目覚めたのは、小学校高学年になってからである。今から思えば、つくづく残念でバチアタリなことであった。
 大学時代、風呂なしトイレ共同アパートに住んでいた頃は、当然風呂と言えば銭湯であり、まだM君出現以前だったので『お父ちゃんといっしょに入浴幼女』もけっこう棲息していたのだが、狸はすでに強度の近視であったし、またなんじゃやら必要以上に含羞に充ち満ちた青年狸でもあったので、すぐ近くでM字開脚をしているろりなどがいても、畏れ多くてあまり観察できなかった。これもまた今から思えば、つくづく残念でバチアタリなことであった。

 いつかまた『お父ちゃんといっしょにお風呂屋さん幼女』がのびのびと棲息できる平和な社会が蘇るよう祈りつつ、焼酎はあおらず輸入発泡酒をあおり、長崎屋で閉店間近にゲットした半額60円の大フランクフルトと半額50円の舞茸天ぷらとQQショップのおでんを、豪勢にはぐはぐと楽しむ。


10月08日 月  模索中

 某小説投稿掲示板方向でない方は、以下の文章は何がなんだか解らないはずなので、黙殺してください。

     ★          ★

 山間の渓流の夕方は、とても早く暮れなずみます。
 見上げる稜線の上の空はまだ蜜柑色で、麓なら夕食の買い物をしているような時刻でも、河床に張られた青系ツートンカラーのドーム型テントあたりには、すでに闇の気配が迫っております。
「おい、拡恵、そっちの具合はどうだ?」
 バーベキューセットの用意をしながら、かばうまさんが訊ねますと、
「うん。なかぱっぱ」
 なかぱっぱ、なかぱっぱ、と唱えながら、拡恵君は大鍋のかかった焚き火に、せっせと薪をくべます。
「よし、赤子泣いても蓋とるな」
「あかご?」
「赤ちゃんのことだ」
 拡恵君は大真面目にあたりを確認し、
「いない」
「岩魚が跳ねても、蓋とるな」
「らじゃー」
 予定の五倍以上に人数が増えてしまったので、まだまだ何度もご飯を炊かなければなりません。山に入る前のコンビニやスーパーで、米やおかずはずいぶん補充しましたが、捜索が長引くとすれば、明日にも買い出しが必要になるでしょう。
「舵武、そっちは?」
 拡恵君の隣の焚き火で、別の大鍋を受け持っていた舵武君は、ぐつぐつと煮えてきた中身をおたまでちょっとすくい、神妙に味見します。
「……カルダモン、たんない」
 何事も深く探求するたちの舵武君としては、市販のカレー・ルウだと、どうしても物足りないのですね。
「贅沢な奴だな。俺が子供の頃なんかはなあ――こんなんだぞ」
 かばうまさんは、器用にピーマンを切り分けながら、いきなし歌いだします。
「♪ 肉〜をお鍋で炒〜め〜 塩〜で味を付〜け〜て〜 湯をだんだん増して炊けば〜 よぅ グラ〜グラッと煮〜える〜 ジャガイモ玉葱入れ グラグラグララララ う〜どん粉溶〜き〜 カレー粉混ぜりゃ〜 あっ ラ〜イ〜ス〜カ〜レ〜 ♪」
 そのきわめてアバウトなレシピが、贅沢な現代っ子たちにどこまで納得してもらえるかはアヤしいものですが、なんだかとっても楽しい歌なので、拡恵君も舵武君もにこにこです。
「『キャンプ料理』という、由緒正しいボーイスカウトの歌だ。今のは、ほんの一例だ。全部で十番目まである。全部覚えれば、味噌汁からシチューまで、山の焚き火でなんでも作れる。『十種野営料理の歌』とも言うな」
「こくこく」
「こくこく」
 まあ確かに、食材を適当に変えて、煮たり焼いたり炒めたりの順序を変えれば、なんだって出来てしまうわけです。あとは、それが過去に体験したどんな料理に近いかを分析し、勝手に命名すればいいわけですね。
 幸い昨今のカレー・ルウは、お湯に放りこんだだけでなかなか侮れない味と食感を呈します。
 山間に漂い始めたその香ばしい匂いを慕うように、上流の大滝方向から、北西方面大猫部隊――鷹ノ巣山方面捜索隊の面々が帰還します。
「あー、おなか空いたあ」
「おう、お帰り」
「おかえりなさーい」
「おかえりなさーい」
「はいはい、ただいまー」
 言い出しっぺということで、一応貴ちゃんが隊長を務めておりますが、現場ではお仲間ごとの三班に別れて、各自マタタビ袋を抱え、分担捜索しておりました。
 移動自体は山慣れた各種タヌキさんや大猫さんの脚任せですから、さほど辛くはありません。それでも林道や登山道を外れて、雑木や藪の生い茂る急勾配の獣道を、きゃぴきゃぴ押忍押忍ひいひいと駈けめぐったのですから、チア部の私服はオモライさん状態ですし、柔道部のジャージはホームレス状態ですし、百合族の制服に至っては、関東大震災で焼け出されたミッション系女学生、そんなありさまです。
 貴ちゃんと剽軽なお仲間たちは、猫に乗っての猫探しなどという非常識《おもしろげ》なイベントなら、なんぼ疲れ汚れても平気ですが、他の面々は、さすがにコタえた様子です。屈強な黒帯少女の群れでさえ、根性顔にいささかの疲労を隠しきれないほどですから、百合族のお嬢様方に至ってはもはやヨレヨレ、「ああ、か弱い子羊のようなわたくしたちに、エス様が与えられたこの艱難辛苦――。でも、耐えなければ。すべては優子お姉様のためなのだわ」と、手綱を取るタヌキさんにしがみついて、猫にまたがっているのがやっとの状態です。ただし、あの引っつめ三つ編みの宮小路さんクラスになりますと、さすがに聖母様から第一使徒を任されるだけあって、戦場に馬を駆る凛々しきジャンヌ・ダルクのごとく、こめかみに血管を浮かしたりしておりますが。ちなみに邦子ちゃんと友子ちゃんは、タル沢とカラ沢方面――東の尾根を越えた二つの支流に出かけているので、まだ帰っておりません。
「それじゃあ、みんな、大休止! 今後の作戦に備え、充分に英気を養うべし!」
 指揮官として重々しく命じたのち、
「カレーもあるでよ〜」
 すかさず往年のコメディアン・南利明さんの、オリエンタルカレーCM物真似もつけ加えたりする、りちぎな貴ちゃんです。
「肉や野菜がいっぴゃ〜入っとるでよ〜」
 ほんとうは「ハヤシもあるでよ〜」なんですけどね。まあパパ方のお祖父ちゃんから受け継いだ遺伝子記憶ですから、平成生まれの貴ちゃんだと、再現に限界があるのでしょう。
 貴ちゃんは、苦労をねぎらうようにバニラダヌキさんのおなかをぽんぽんと叩き、器用に三毛猫さんから降り立って、後ろに積んでいた布袋を抱え下ろします。
「どっこいしょ」
 その大きな布袋は、なんじゃやらもこもこと、内側から蠢いております。なーなー、などという鳴き声も聞こえるようです。
「きゅうくつでごめんねー」
 布袋の中身を河原にぶちまけますと、
「な〜お」
「な〜お」
「ごろな〜お」
 マタタビに酔っぱらった野良猫さんたちが、へべれけでのたくります。
「ねえ、貴乃花」
 琴欧洲さんが、同じように袋を抱え下ろしながら、
「探してるのは、でっかい白猫だったよね?」
「ほーい」
「なんで片っ端から、野良猫集めてくるわけ? いや、かわいいから別にいいんだけどさ」
 琴欧洲さんは、開ける前の布袋を、ふにふにと爪先で押してみます。
「にゃ〜」
「ぽんと蹴りゃ、にゃーと鳴く。……山寺の和尚さんに、配給して回るとか?」
 ――言われてみれば、確かに意味ないかも。
 貴ちゃんは、ごろごろとのたくる野良猫さんたちの前にしゃがみこんで、しばし悩乱します。
「こちょこちょ」
 なんとなく顎の下を掻いてあげたり、
「つんつん」
 入念にお腹を突っついたりしたのち、厳粛な顔で琴欧洲さんを見上げ、
「…………とても、おもしろい」
 貴ちゃんの思考能力では、そこいらが限界なのですね。
「……おもしろきゃいいってもんでもないでしょ」
 そんな会話を聞いていたかばうまさんは、器用にタマネギを輪切りにしながら、フォローしてあげます。
「まあ邦子の言ったことだから、考えがあるんだろう。ザコも一カ所に集めとけば、今後の捜索んとき紛らわしくない、とか」
 こくこくとうなずくチアリーダーたち越しに、ふと、後続のメンバーを見やったかばうまさんは、
「げ」
 包丁を握ったまま絶句します。
 柔道部副将の田村さんが、相方のミントダヌキさんや仲間たちといっしょになって、巨大虎猫の背中から下ろそうとしている獲物――それは猫袋ではなく、どう見ても山着姿の巨漢です。
「……死んでないよな?」
 巨大猫が誤って狩ってしまったのではないか、そう不安になったのですね。
「押忍。気絶しただけっす」
 田村さんは、若い頃のミヤコ蝶々さんのような笑顔で頭を掻きながら、
「カスミ網で野鳥を密漁してたもんで、ちょっとシメてやろうとしたら、これが超重量級の上に、なかなか技のある奴で……」
 口ごもる田村さんを、ミントダヌキさんがフォローします。
「執拗な寝技に持ちこまれ、やや形勢不利と思われましたので、このタイガースターが猫パンチをお見舞いしました」
 巨大虎猫さんが、にゃおおおん、と得意げに鳴きます。
 かばうまさんは、白目をむいて頬を腫らしている密猟者の息を確かめ、
「……まあ、命があるだけ、ラッキーだわなあ」
 たかが猫パンチとはいえ、熊の手ほどもあるわけですからね。もし爪を立てられていたら、顔面半分、確実に持ってかれるところでしょう。
「あ、あのう……」
 さらに後ろのほうから可憐な声がかかり、かばうまさんが首を伸ばしますと、
「で、できれば、こちらの方も……」
 優子ちゃんを孫ダビングしたような、でも世間の相場から見れば充分神秘的美少女の後輩さんが、レモンダヌキさんや宮小路さんたちといっしょに、釣り師姿のオヤジを抱えて往生しております。
「あの、あの、わたくし、喉が渇いたので水辺に下りましたら、あの、この方が、足を滑らせて沢に落ちて、そのまま流されて……」
 そりゃ深山で孤独な渓流釣りに耽っているとこに、いきなり白虎にまたがった制服の美ろりが出現したら、仰天もするわなあ――。
 事前の注意が甘かった、と、つくづく嘆息するかばうまさんでした。
 そのとき、背後の斜面の藪をざざざざどどどと揺らしながら、大小ふたつの影が、猿《ましら》のごとく駆け下ってきます。
「あー、腹へった」
「おれも、はらがへったぞー」
 出発時、背負子いっぱいに積んでいたお握りや、マタタビ袋やトラバサミは、綺麗に空になっております。
 邦子ちゃんは、河原に群れをなしてなーなーごろごろとのたくっている野良猫たちを、満足げにながめ、
「よしよし、かなり派手に集まったな」
「そっちは、手ぶらなのか?」
 かばうまさんが怪訝そうに訊ねますと、
「まあ、こっちは尾根と沢ふたつぶん、二人で走破だからな。猫の好きそうな場所に、罠を仕掛けて来ただけだ」
 邦子ちゃんと友子ちゃんは顔を見合わせ、にんましと笑います。
「お楽しみは、これからだ」

     ★          ★

 ……要は、長編たかちゃん外伝の続きの冒頭である。ビンボと日雇いネタに飽きて、他のネタにも詰まったので掲載してみた――わけではけしてなく、前回の投稿分にお二方からしかご感想をいただけなかったため、このままのペースで話を進めていいものかどうか、イマイチ自信が持てないのである。
 そのお二方からは好意的なご感想がいただけたし、最終的に優子ちゃんをアレしてあげなければならないし、それどころか最終的には全宇宙全時空をたかちゃんワールドに引きずり込むという野望があるので、ビンボ暇なしの合間を縫って続けているわけだが――このままだと今回の『ゆうこちゃんと星ねこさん』は、かつて自分が打鍵したどんな長編よりも、確実に大長編になる。文芸物と違い純エンタメ物件だけに、いつもの方々からのご感想が途切れてしまうと、どうも打鍵にイキオイがつかない。
 と、ゆーわけで、今日の雑想は、ただのグチである。すみませんすみません。


10月06日 土  YAHOOの恐怖

 って、後ろ暗いところのある狸自身がいけないんですけどね。
 いや、昨夜なんかいろいろの上野方面から帰宅してパソを立ち上げたら、どーやってもネットワークに繋がらなかったのである。「うわあ、月末に残高不足で使用料引落しできなかったから、さっそく切られてしまったか。でもメールでは、後で振込用紙送るからそっちで払えばいい、そう書いてあったよなあ」と思っても、その肝腎のメールがYAHOOのメールボックスにあるのだから、再確認しようがない。機械的な問題や、なんかの加減で接続設定が変わったのかとも思い、小一時間いじくってみたが駄目。ADSL導入前のモデムを引っぱり出して、10年近く前のネット初参入時に試用した従量制プロバイダーに繋いでみたが、そんなサービスはとっくに滅びているのであった。
 まあ2〜3日つながらなくとも実害はないのだが、いつものようにパソを使いつつふとネットを参照しようとしてペケだったりすると、なかなか怖いものである。「ああ、みんな、ボクをひとりぼっちにしないで!」などと、遠ざかる背中たちに追いすがりたくなる。いつのまにやら、狸もすっかりネット依存症に堕ちているのであった。
 で、今日になってパソを立ち上げてみれば――なんのことはない、いつも通りに繋がる。一時的なアクセス障害かと思いYAHOOのメールをチェックしたが、それらしい知らせもお詫びもない。まあ、繋がりゃいいんですけどね。と言うわけで、いきなり復活し、あっちこっち検索しながら、たかちゃんの続きを打ち始める。あんな口から出まかせのような話でも、ベースの資料は不可欠なのである。図書館で借りた地図や資料だけでは、細部の空気感がつかめない。実際に現地を知る人や、各ジャンルの専門家の方々のHP――それらを覗かせてもらうのが一番だ。
 まあ、いっさいの繋がりを断たれても、私小説や思索的小説を書けばいいのだろうが。


10月04日 木  誘惑と萎縮

 DVDの仕分けの現場は、出入りの際の持ち物チェックや、なんじゃやら機械によるボディ・チェックが入念だった。それもそのはず、古今東西の映画がオール・ジャンル網羅され、音楽関係もハヤリ物からクラシックまで揃い、狸好みの『サンダ対ガイラ』とか『太平洋奇跡の作戦・キスカ』などの特撮タイトル、いつのまに出たのやら三島由紀夫が監督した映画『憂國』まで大量に並んでいる。ある種のクセのある方なら、ついついベルトの腹に挟んだりしたくなるかもしれない。ここをご覧になっている方々は皆さん正直な方々ばかりなので――まあ中にはそうでない方も多少は混じっているかもしれないが、いずれにせよ馬鹿ではないはずなので、そんな見え見えの盗みを働く奴は滅多にいないと思うかもしれないが、いるんだそうですね、結構。その現場では聞きませんでしたが、某食品倉庫では、幅広の作業ズボンを隠れ蓑に、脚に酒瓶巻いて帰ろうとした方がいらした由。
 それはさておき、扱っている物にハヤリ物が多いせいか、その現場では現在ハヤリの歌が次々に流れ、まことに軽快に作業できたのだが――ひんぱんに『千の風になって』が流れるのには、少々まいった。いっしょに作業している若者もおねいちゃんもおっさんも、「……いい歌なんですけどね」「……こーゆーとこで、聞きたくないかな」「……縁起わりい」、そんな感じであった。確かに、日雇い派遣現場向きの歌じゃないわなあ。あれは、ココロかフトコロのどっちか、あるいはその両方に余裕がないと、必ずしも同調できないのである。
 ふと、『♪ 私〜の お墓の〜ま〜えで〜 吐かないでください〜 ♪』などと、駄洒落が浮かんだ。続けて、声に出さずに歌ってみる。

   私のお墓の前で 吐かないでください
   そこに私はおります ほんのカケラですけど
   あとはケムに
   薄いケムになって
   あの大きな空にも
   ちょこっと浮いてます 

   秋にはふりそそぎますけど 見えない程度です
   冬はきらめく雪に まざっているのかも
   朝の鳥になるのは 焼かれたんでムリ
   夜の星になるのは 物理的にナシ

   私のお墓の前で 吐かないでください
   そこに私はおります ほんのカケラですけど
   あとはケムに
   薄いケムになって
   あの大きな空にも
   ちょこっと浮いてます

   あとはケムに
   薄いケムになって
   あの大きな空にも
   ちょこっと浮いてます

   あの大きな空にも
   ちょこっと浮いてます

 ……まあ、そんなとこか。


10月02日 火  うぐひす

 いつだったか、男性ソプラニスト(ソプラニスタ、というのだそうだ)の岡本知高さんの歌声に、ご近所のワンちゃんたちが遠吠えで反応するという話を聞いた。テレビのバラエティーで実験して、確かに反応するのも観た。単なる音域のカブリなのかもしれないが、やはり情動的な何かに触れるからこそ、ワンちゃんはコミュニケーションを求めてくるわけである。狸も岡本知高さんのアルバムは買ったが、あまりに『美声だが肉声』すぎて息苦しく、三べん聴いて売り払ってしまった。狸は遠吠えしない質だからか。
 先週からの興味の引きで、『天使の声 生きながら生まれ変わる』という本を、図書館で借りてきた。米良美一さんの自伝である。先天性骨形成不全症だったのは知っていたが、そこまで過酷な幼少時代を過ごしたとは知らなかった。成長期も終わり、ようやく病状が安定して、つまり肉体的・精神的苦痛から抜け出てしばらくのイキオイがあったからこそ、あのすべての軛《くびき》から解き放たれたような、初期アルバムあたりの発声が可能だったのかもしれない。以降の編曲や録音技術を駆使したポップスっぽいアルバムも心地いいのだが、ピアノ伴奏ひとつで歌い上げる初期の声は、確かに現世の人間の声を越えている。
 自伝のあとがきに、こんなエピソードがあった。スエーデンの森にあるギムナジウムのホールで、『うぐひす』(BISの原盤名は『ナイチンゲール』)の録音を行ったとき、米良さんが歌い始めると、そのホールの屋根に多数の小鳥たちが集まっていっせいにさえずり始めてしまい、歌いなおしが大変だったそうだ。米良さん自身は、邦楽を意識して尺八や篠笛のように歌ったから、つまり尺八や篠笛自体がもともと小鳥の声を模しているからではないかと言っているが、まあ小鳥でなくて仮に狸であっても、いっしょにさえずれるものならさえずりたい『肉声とは思われぬ美声』であることは確かである。