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02月26日 火 ファンタジー・グルメ |
新古本屋が古書店を駆逐し、その新古本屋さえ次々と撤退し、狸穴界隈での100円棚漁りが困難になりつつあることは、以前にも記した。
しかし、南口駅前にあった最大手『BOOK・OFF』が撤退することによって、北口の量販店『メガ・ドンキホーテ』の中にあるちっぽけな新古本屋『ロシナンテ』が、なかなか面白いことになっている。以前、デアゴスティーニの東宝特撮シリーズの内の『血を吸う』三部作を、安く入手した店のことである。
昨夜100円ワゴンで見つけたのは、中公文庫の『味覚極楽』。
10年ほど前の文庫本だが、内容はこのようにたいへん古く、貴重にして美味な書物である。
現在、中身の情報だけなら電子出版されているようだが、リアル紙書物としては絶版であり、図書館や古本屋で探すしかない。ふつうの古書店なら、文庫本でも何千円かの値をつけるのは間違いないだろう。そんな本が100円で買える。あらゆる書物を生鮮食品扱いしてくれる新古本屋の、数少ない美徳のひとつですね。
で、行き帰りの電車の中で読み始め、子母澤寛先生の飾り気のない文体で再現される、明治大正昭和初期の各界著名人による食味トークに、ぐびりぐびりと喉を鳴らしているわけだが――その中で、別々の語り手から『震災を境に●●の味が変わってしまった』という意の発言が頻出し、江戸以来の日本の味覚は明治維新以降徐々に変質し、大正の関東大震災あたりでほぼ壊滅してしまったらしい、そんなことが実感、いや想像できる。
つまり、この書物で語られる垂涎モノの各種美味物件は、現在、極貧の狸のみならず、どんな大金持ちが全財産を投じようと、絶対に味わえないのである。当時から金満家しか口にできなかった高級食材のみならず、ちょっとした魚介や野菜そのものが、素材段階で変質しているからだ。
これほど完璧なファンタジーはない。
今ある他人・他界への羨望や嫉妬を完全に忘れさせてくれる、想像にして現実。
……まあ、今後、過去へのタイム・トラベル技術が開発され、それも大金持ちしか参加できないほど高コストだったりしたら、また話は別なんですけどね。
◇ ◇
ところで、こないだの夢の海洋大アクションで、三味線と声だけ披露してくれた柳家三亀松師匠とは、こんな方です。
02月24日 日 夢 |
こんな夢を見た。
狸がスタイリッシュな小型高速艇を駆って大海原を旅していると、行く手の海面に、次々と巨大な岩礁が突き出す。海底火山らしい噴煙も上がる。
その岩礁や噴煙や沸き立つ荒波を避けながら疾駆するのは、大変にスリリングで痛快だったのだが、なぜだか岩礁も波も、初代・柳家三亀松師匠の色っぽい都々逸に乗って、突き出したり逆巻いたりしているのである。
♪ 弱虫が たったひと言 ちっちゃな声で 捨てちゃいやよと 言えた晩 ♪
とか、
♪ 恋のささなき初音にもれて やがて浮名の谷渡り ♪
とか。
目覚めた後、しばし呆然と己の脳味噌を揺らしながら、「……なんでやねん」と呟いてしまいました。
単なる無意識の過連想と知りつつ、超シュールな状況を現実さながらに体感できる夢というやつは、とてもありがたい。おまけにロハだ。
02月22日 金 日和見日和 |
先週あたり中国の件で、やたら好戦的な反応を呈してしまった狸であるが、今週は出稼ぎ中国人の中年男性といっしょに、和気藹々と仕事をしていたりする。曾祖父の代から中国と日本を行ったり来たりし、激動の戦前戦中戦後も、庶民的平衡感覚をもって要領良く出稼ぎに勤しんだ家系らしい。
中国の方に言わせると、日本に輸出される中国製食品はまず安心なので、自分たちもばくばく食っているそうだ。しかし中国国内で売られている自国製食品は、かなり用心しないとマジにヤバイとの由。
「日本製品不買運動? ソンナノ、ミンナ口先ダケヨ。買ワナイ人ハ、買エナイ人ヨ」
ちなみに現在、狸が口にする食品の何割かは中国製だし、着用している衣類に至っては、すべてが中国製である。
「戦争? 今ドキ、ドッチモデキッコナイヨ。ドッチモ口先ダケヨ」
そりゃそーだ。わざわざ大損こくために喧嘩するほど、貧乏人は馬鹿ではない。
まあ、損得勘定を見失った軍人は要注意だが。
◇ ◇
割れた唇と貨幣状湿疹には、ダイソーのリップクリームとアロエクリーム。
充血して涙ポロポロの目は、さすがにダイソーでは対処できず、ドンキで一番安かった248円の目薬。
喉の腫れは、持病の扁桃腺ではなさそうなので、つまり単なる喉風邪段階なので自然治癒任せ。
戦争するなら金をくれ。
02月19日 火 冬の足音 |
さて、いよいよ本格的な冬ですね。
唇が割れるは喉が腫れるは脛に貨幣状湿疹ができるは目が充血するは涙が止まらんは、命に別状のない不都合だけがてんこもりになる、サミいサミい冬ですね。
皆様、冬支度はしっかりお済みでしょうか。
今年の初春は無期延期となり、厳冬の次にいきなり陽春あるいは初夏になりそうです。昨年の、猛暑からいきなり晩秋のパターンが、逆方向でも踏襲されるわけですね。
しかし人や狸として、ひび割れた唇をギリギリと噛みしめ寒風に耐えつつも、心だけは、うにゃうにゃごにょごにょと、なまあったかい馴れ合いを保ち続けたいものです。
などと言いつつ、ああ喉が痛い。乾燥しきった段ボール箱の山って、外がいちんち二日降ったところで、ちっともシケらないのね。厳寒の砂漠。
◇ ◇
ところで例の『PC遠隔操作事件』の容疑者逮捕の件、司直側が当初あるあると言っていた(とマスコミが報じていた)証拠映像が、なんじゃやら次々と曖昧化し、しまいにゃ「マスコミが勝手に報道しただけ」などという話になりそうだ。
ううむ、これはもしや、日本警察名物「とりあえず以後の捜査の手間を省くため容疑者ひとり確定しちまえ」か。
もしそうなったら、今回の場合、恥の上塗りの上塗りになってしまうわけだが……そもそもパソコンだいじょぶか、桜御紋のとっつぁんたちは。
02月15日 金 雑想 |
アブレ日、もとい歯医者さんのつごうで自主休日。
例の超絶激痛臼歯はとっくに金属化したのだが、前後に陸続と虫歯が発見され、あまつさえ本日は、20年も前に金属化した下の臼歯の根っこが化膿しており、膿袋(?)が骨を貫いて歯茎表面までコンニチワしているのが発覚し、そっちを先になんとかしましょう、ということになった。
うわあ、やっぱり。
昔、茨城の取手に住んでいた頃、突然の痛みに焦ってとんでもねーヤブ医者にかかってしまい、完治したはずの金属冠が翌日に外れたり、くっつけてもくっつけてもまた外れるので冠自体を作り直したり、当時からなんかいろいろ疑惑がてんこもりだったのである。神経を殺してあるので痛みはないが、どうやら長きに渡って黴菌さんの集合穴居と化していたらしい。
嗚呼、いつまで続く財布の定期軽量化。
◇ ◇
近頃とみに幼時退行が著しい狸なので、本日は図書館から童謡だの軍歌だの寮歌だの、退嬰ずっぷしCDを借りまくってきたのだが、いわゆる『愛唱歌』というやつが、近頃ちょっと困った状況になっているのに気づいた。たとえばアメリカ民謡に属するフォスターの名曲『故郷の人々』(別名・スワニー河)、メロディーは当然昔懐かしいままなのだけれど、訳詞が違うのである。
幼時の狸がうっとりと聞き惚れていた、女学生のおねいさんたちの清楚な合唱などは、こんな歌詞だった。
遥かなるスワニー川 その下(しも)
なつかしの彼方よ わがふるさと
旅空のあこがれ はてなく
思い出ずふるさと 父母(ちちはは)います
長き年月(としつき) 旅にあれば
おお つかれしわが胸 父母(ふぼ)をしたうよ
これは勝承夫氏の訳詞である。
ところが近頃のCDに収録されているのは、みんな違う歌詞だ。
遥かなるスワニー河 岸辺に
老いしわが父母 われを待てり
果てしなき 道をばさすろう
身にはなお慕わし 里の家路
さびしき旅を 重ねゆけば
ただ懐かし 遠きわが故郷
こっちは堀内敬三氏の訳詞だった。
まあどちらも明治生まれの音楽関係者、愛唱歌界では大御所の作で、甲乙つけがたい文語調なのだが、狸個人、じゃねーや、狸個獣の識域では、母親の子守歌ときゃりーぱみゅぱみゅの成人式ほどに鮮度が違ってしまう。
で、今、ネットであっちこっち検索してみたら――おお、なんじゃやら現代の愛唱歌界(?)では、堀内敬三氏バージョンが席巻してしまっているのですね。
しかし、あくまで己の失われた過去というなまあたたかい雨にうたれてそのまま死んでしまいたい狸としては、未練心に根性入れて、勝承夫氏の訳詞による歌唱を検索し続けました。
――あったぜ。どうやら、たったひとつのCDが。
【浜松市楽器博物館コレクションシリーズ42 リードオルガンに夢をのせて】――これに収録された『故郷の人々』は、確かに勝承夫・詞、とある。おまけに伴奏は、懐かしの足踏み式オルガンではないか。
これはもう、図書館に頼んでみるしかあるまい。自分の財布は、ちょっとこっちに置いといて。
02月14日 木 バレンタイン |
なにそれ、おいしいの? などという化石級のバックレはちょっとこっちに置いといて……
◇ ◇
【北京=矢板明夫】中国人民解放軍を指揮する総参謀部が全軍に対し、2013年の任務について「戦争の準備をせよ」との指示を出していたことが明らかになった。14日付の軍機関紙、解放軍報などが伝えた。また、国営中央テレビ(CCTV)など官製メディアは最近、連日のように日本との戦争を想定した特集番組を放送し、軍事的緊張感をあおっている。
沖縄県・尖閣諸島周辺での自衛隊との軍事衝突を意識して、習近平新指導部がその準備と雰囲気作りに着手し始めた可能性がある。
解放軍報によれば、総参謀部が全軍に向けて出した2013年の「軍事訓練に関する指示」の中で、「戦争準備をしっかりと行い、実戦に対応できるよう部隊の訓練の困難度を高め、厳しく行うこと」と記されている。総参謀部は昨年も訓練指示を出していたが、「軍の情報化や部隊間の横の連携の重要性」などを強調する内容が中心で、今年のような戦争を直接連想させる表現はなかった。
中国指導部が戦争準備に向けて大きく一歩踏み込んだことがうかがえる。
同紙は今年の訓練目標について、昨年11月に就任した習近平・中央軍事委員会主席の重要指示に基づいて作成したと解説している。
また、中国の主要メディアは今年に入って、「尖閣戦争」を想定した番組を連日のように放送している。中国軍事科学学会の副秘書長、羅援少将や、元海軍戦略研究所長の尹卓少将ら多くの軍関係者が出演し、主戦論を繰り広げている。そのほとんどは習総書記と同じく太子党(元高級幹部の子弟)のメンバーで、習総書記の意向が反映している可能性が高い。【産経新聞2013/01/14 21:16】
一方、日本と外交交渉を通じて尖閣問題の解決を主張する学者らはほとんどメディアに呼ばれなくなったという。ある日本研究者によると、最近北京で行われた尖閣問題に関するシンポジウムで、「論争の中心は対日戦争を小規模にとどめるか、全面戦争に突入するかが焦点になりつつある。小規模戦争を主張する人はハト派と呼ばれ、批判されるようになった」という。
共産党筋によれば、習近平総書記は昨年11月の党大会で、軍人事の主導権を胡錦濤国家主席が率いる派閥に奪われた。習氏は現在、軍内の保守派と連携して、日本との軍事的緊張を高めることで、自身の求心力を高め、主導権を取り返そうとしているとみられる。【産経新聞2013/01/14 21:16】
わははははは、習近平の旦那、八方ふさがりですな。有力な外交カードであるはずの北は、親北の貴君すらナメつくして核実験強行するし。いっそ北といっしょになって世界を敵に回すか。覚悟があるなら、よろしい、来なさい。
なんつって、来るはずないんですけどね。我が身かわいさに、国民を煽ってるだけ。
しかし問題は、すっかり夜郎自大化した人民解放軍が、マジに暴走しはじめるという最悪のケースだが――いよいよ旧大日本帝国や関東軍をトレースして、亜細亜のバケモノ、いや亜細亜の曙を目ざすか。がんばれ人民解放軍。
……いかんいかん。身内が戦争に行った世代の狸だと、どーしても危機感より昂揚が先に立ってしまう。
いけません。
戦争はいけません。
絶対にこちらからは仕掛けない、という意味での九条は大切だ。
でもやっぱり、仕掛けられたら応戦するしかないもんなあ。なまねこなまねこ。
02月11日 月 殺生なり |
平成元年夏の深夜にビデオ録画し損ねて、以来、20年以上後悔し続けているこの番組を、先日YOUTUBEで見つけたときには、驚喜乱舞したものである。なんとなればこの番組は、狸が子供の頃から密かに愛好し、今やすっかり市民権を得た『実話怪談』を、曲がりなりにも真面目に長時間、集中的に取り上げてくれた、初めての番組だったからである。のみならず、狸の大好きな食生態学者兼探検家兼登山家・西丸震哉氏が、著作内で紹介していた怪奇体験(釜石の幽霊の話)を、自ら一席語ってくれた唯一の番組でもある。
しかし……なぜだ。アップロードされた動画からは、肝腎の西丸氏の独演部分がカットされている。他にもタレントの女の子の体験談などがカットされているようだが、えんえん一時間半ぶんもアップロードしてくれたのだから、あと正味30分ちょっと、ノーカットで放流してくれればいいではないか。
おそらくアップした方にしてみれば、「この西丸っておっさん誰?」、その程度の認識だったのだろうが、ほんとにすげー人なんだぞ、あのおっさんは。
それでも、他の女性登山家へのコメントという形で、ちょっとした体験談が聞けたから、やっぱりYOUTUBE様々ではあるのだが。
02月08日 金 兵器で嘘をつける人々 |
あ、誤変換(でも当たってるかも)。
ともあれ、平気で嘘をつける奴に「ウソだ」と言っても、「いやホントですよ」と返されるだけなのは自明の理で、つまり議論しても時間の無駄である。喧嘩するのも無視するのも厭なら、玉虫色の関係を築くしかない。
しかしまあ、育ちの卑しい連中が大金を持ったり権力を握ったりすると、ほんとに始末におえませんね。『謙虚』という概念は、金でも力でも知識でもなく、ただ相互関係によって育まれる。卑しい環境には相互関係がなく、上下意識があるばかりだ。
しかし、赤くなるはずが、今はドドメ色になってしまったあの国も、昔は、悠久の浪漫を紡いでくれていたのよなあ。
02月06日 水 休日 |
昨夜から、『明日は関東平野部でも大雪です大雪です』と、気象予報士のおねいさんたちが、しきりにはしゃいでいた。
だから、というわけでもないのだが、本日はアブレになりそうな気配をあっさりと受け入れ、深追いはせずに、昨夜から狸穴で蒲団にくるまっていた。
夜中に目覚めるたびに、外の様子を窺いながら、かなり心配はしていた。大雪を、ではない。大雪でなかった場合を心配していたのである。
予報を真に受けた交通機関各社は、昨夜早々に間引き運転を決定してしまった。降ろうが降るまいが、各駅の朝の大混乱は必至である。もし大雪にならなかった場合、はしゃいでいた気象予報士のおねいさんたちが、世間から責められはしまいか。それでなくとも天気予報という奴は、狸の子供時代に比べればずいぶん的中率が高まったとはいえ、いまだに、派手に降るはずの雨が一滴も降らなかったり、降雨確率0パーセントで、しっかり夕立がきたりする。つまり依然として『予報』ではなく『予想』、あるいは『お天気占い』なのである。
案の定、狸穴のある地域にも未明から降りだすはずだった雪は、とうとう一片も降らなかった。ただの小雨なのに、とんでもねー通勤ラッシュで翻弄された方々はつくづく気の毒だが、都心でもうっすらと雪化粧をした地域はあったようだし、北関東ではけっこう積もったらしいから、くれぐれも気象予報士のおねいさんたちをリンチにかけたりは、しないでほしいものである。悪いのは、いいかげんな意思表示しかしない神様たちであって、占う巫女に罪はない。
ともあれ、起きたときに外が一面の銀世界だったら、喜んでわんわんわわんと、じゃねーや、くぅんくぅんと庭を駆けまわろうと思っていた狸は、「……なーんでえ」などと怠惰に呟きながら、午後遅くまで蒲団に籠もっていたのであった。
◇ ◇
徒に昭和レトロに執着するのはやめよう。なぜならそれらの風物は、狸の脳裏にしっかり現存しているのだから――などと、以前ここにも記した記憶があるのだが、夕方訪れた図書館では、またぞろ先代圓楽師匠だの圓生師匠だの男はつらいよだの、昭和レトロ物件を、しこたま借り出してしまった。なんとなれば、近頃、肝腎の『脳裏』のほうがすっかり傷んでしまい、そこに現存していたはずの昭和が、それはもうザルで掬った水のように、次々と記憶からダダもれになり、どこぞに消え去ってしまうからである。
そのことを痛感したのは、このところビンボゆえ新しい本が買えず、書架に残した大昔の愛読書を再読するうち、学生時代に暗記するほど繰り返し読んだはずの書物の内容を、きれいさっぱり忘却しているのに気づきはじめたからである。いや、大筋や大意は記憶しているのだが、細部の読みどころが、まるで新鮮なのですね。
これは嘆くべきか喜ぶべきか。
手元に残した本をロハでまた楽しめる、という利点はあるが、ならば「もー大丈夫。頭の中にあるから」と、バサバサ売り払って生活費に替えてしまった過去の蔵書などは、脳味噌からダダ漏れになる一方ということだ。それらの大半は図書館にも青空文庫にもないマイナー物件だから、古本屋でも巡って再購入しない限り――いや、だからそもそも再購入できないんだってばビンボで。
人はパンのみに生きるにあらず――至言ですねえ。
02月03日 日 冬の夜 |
浮かない夜は浮かないままに浮かない情緒を愉しむ、というのもアリだと思うのですね、寒々とした(とくにフトコロが)冬の夜なんぞには。
そういや近頃、しっとりした冬のエロゲー(おい)も、空から降ってきませんね。
02月01日 金 まだ |
たかこ 「やっほー! まーだだよー!」
くにこ 「んむ。狸は、まだだ。恵方巻も、まだだな」
ゆうこ 「……えほーまき?」
たかこ 「ありゃ、ゆうこちゃん、しらない? 恵方巻」
ゆうこ 「こくこく」
くにこ 「んむ。ゆうこんちは、いっつも、ばたくさい洋食ばっかし食ってるから、にっぽんのじょーしきを、知らないのだな。ならば、かしこいこのおれが、すべてを教えてやらずばなるまい」
ゆうこ 「こっくし」
くにこ 「んじゃ、よくきけよ。まず、めしを炊く。これは、おおければおおいほど、いい。ふつう、米だわら一俵くらいだろうな」
たかこ 「…………」
ゆうこ 「…………」
くにこ 「次に、おだいどこの床に、お海苔をしきつめる。これは、たたみ4畳ぶんもあれば、じょーとーだろう」
たかこ 「…………」
ゆうこ 「…………」
くにこ 「んでもって、ぐるぐるぐるぐる、でっけー海苔巻をつくるのだ。具は、あまからく煮た干瓢を一本。ただし、うーんと長いやつな。最低一間《けん》半は、どーしても、ほしい。ゆうこんちは大金持ちだから、ふたつ折りで三間くらいは、いけるかもな。いっそ、しんしょーつぶす覚悟で、魚肉ソーセージの細切りも一間半……そこまでやったら、最高だな。――じゅるり」
たかこ 「…………」
ゆうこ 「…………」
くにこ 「んでもって、このでっけー海苔巻を、まるのみにするのだ。そりゃもー、電信柱より、ぶっとい海苔巻だ。とーぜん、のどにつまる。んでも、まるのみにする。はしっこだけのんだあたりで、もー食道から胃袋まで、ぱんぱんになる。とてもシヤワセだ。シヤワセでシヤワセで、なみだが、とまんないかもしんない。んでも、のみつづけるのだ。もぐもぐもぐもぐ、のんでのんで、もー自分のからだが電信柱みたく、おだいどこ中につっぱらかるまで、もぐもぐもぐもぐ――じゅるりじゅるり」
たかこ 「……うあ、うああああ」
ゆうこ 「ほろほろ、ほろほろ」
くにこ 「どーした? ふたりとも、なぜ泣く?」