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02月28日 木  冬来たりなば

 体感上の季節が、日によって初夏になったり真冬に戻ったり、もーまったく老体では追随しきれず、自律神経が出張から帰ってこなくなってしまった。自律神経出張症である。
 とゆーよーな駄洒落はちょっとこっちに置いといて、血圧も血糖値も明らかに乱高下しているような自覚があり、そろそろ労働中や入浴中に「うっ」とか呻いてそれっきりになるのではないかと恐れていたのだが、いつものクリニックに行って前回の血液検査の結果を聞いたら、さほど悪い血ではないらしい。前回が糖尿病の玄関先から今にも座敷に上がりこみそうなイキオイとすれば、今は玄関先で表札を見上げているくらいの数値らしい。

          ◇          ◇

 いきなり気を良くして、冷たい雨の中を、まだ行ったことのなかった市立信篤図書館に進軍。
 公民館に隣接した、ささやかな出張所的図書館ではあるが、少なからず戦果はあった。
『学年誌が伝えた子ども文化史』(小学館のレトロ系ムックですね)全3冊、『「寅さん」こと渥美清の死生観』(寺沢秀明・2015・論創社)、『最後のクレイジー 犬塚弘』(犬塚弘+佐藤利明・2013・講談社)、とりあえず以上の5冊を借用。
 それ以外にも、行きつけの市立中央図書館にはない蔵書が、けっこう並んでいた。きっと各所の市立図書館全体で、なるべく多くの品揃えを企図しているのだろう。もちろん当代の人気作品などは、どこも同じように揃えているのだけれど。
 中でも『「寅さん」こと渥美清の死生観』は、とくに良さげである。渥美さんと個人的親交の深かった唯一(たぶん)の芸能記者である寺沢氏が、渥美さんの知られざる素顔を、腹を割って披露してくれている。まだ半分くらいしか読んでいないが、巷に溢れる渥美本の中では、渥美さんの最後の付き人であった篠原靖治氏の2冊や、小林信彦先生の『おかしな男』に匹敵する、私生活や本音まで肉薄した書物であろうと思う。
 寺沢秀明という方は、どうやら聖教新聞の記者さんらしいが、その語り口には、ほとんど創価っぽさがない。書名から想像するに、まだ読んでいない後半で、たぶん死生観に関わる話も出てくるのだろう。それがあくまで法華レベルの関わりならば、狸としては大歓迎である。
 池田教的な学会話は御免だが、仏教的な死生観は、むしろ狸の好物だ。


02月23日 土  にゃんこまみれ

 2月は猫の月なのだそうだ。
 昨日は猫の日だったのだそうだ。
 ちなみに狸がそれらの事実を知ったのは、今週の頭、ケーブル機器で録画予約をするために『猫』で検索をかけたときのことである。主に岩合さんの『ネコ歩き』を録画するために毎週検索しているわけだが、巷のネコ人気を反映して、昨今は岩合物件以外にも多数の検索結果が表示される。しかし今週は、異様なまでに検索結果が膨大であった。『アニマルプラネット』のみならず『チャンネルNECO』や『日本映画専門チャンネル』でも、常軌を逸した量の猫番組が、雪崩や洪水のように放映されている。ちなみに『チャンネルNECO』は、けして猫専門のチャンネルではない。いつもならチャンネル名に反し、普通の映画や、懐かし系のドラマやバラエティー番組の再放送が主で、猫の含有率はけして高くないはずなのである。
 で、なんじゃこりゃ、と首を傾げつつ調べてみたら――はい、猫の月とか猫の日にちなんで、各局ノリノリの大特集を展開していたのですね。
 猫関係の映画やらドラマやら、『ねこまにあ』だの『にゃんこの城』だの『ねこ島日記』だの『しまねこ日和』だの『のら猫ニッポン』だのの猫関係ドキュメント・シリーズやら、ネットの投稿動画を集めたらしい『ネコネコ動画』シリーズやら――。
 結局、現時点で狸穴の録画機器には、なんと50本近い猫番組が詰まっている。
 ……いつ見るんだ、これ。

          ◇          ◇

 アブレ日の本日は、リアル猫にも不自由しなかった。
 買い物やらコインランドリーやらで4回ほど外出・帰穴を繰り返したのだが、そのたんびにミケ女王様とブチ下僕も狸の足元にくっついて出入りを繰り返し、「おお、ぬくいぬくい」と洗濯物にまみれたり「なんかくれなんかくれ」と尻尾をぷるぷるさせたり、やりたい放題なのであった。
 そうしたリアル猫との接触中は、テレビで他の猫を観る気にもなれず、あえて『新日本風土記』の『釜ヶ崎』を再生したりする。
 そこでは狸同様に明日をも知れぬ日雇いのおっさんや爺さんが、最底辺労働さえも生きながらえるための僥倖と心得て、勝ち組の方々から見れば悲哀に満ちた日々を送っているわけだが――。
 でもね、けっこう吹っ切れた顔してますでしょう、ドヤ暮らしの日雇いも。
 地域猫と野良猫の間を行ったり来たりの生活だって、室内飼いの猫では体感できない野性の風に吹かれながら、「あー、なんか、もうどーでもいいや」と、気ままに孤独死できたりもするのです。


02月16日 土  雑想

 アブレ日なので、荒川まで出張って、首都高の下の中州(?)を十キロほど延延と遡上。
 その途上で――【恵方巻きの廃棄問題を解消するために、食品業界が、売れ残った恵方巻きを冷凍保存してバレンタインデーに解凍し、「バレンタインデーにはチョコといっしょに恵方巻きを送るのがこれからのトレンド」などというキャンペーンを開始して世間から嘲笑されるが、世界的な人気を誇るゲーム&アニメがネタとしてシナリオに取り込んだらなぜか大ウケして世界中に認知されてしまい、「本命の男性に今年の恵方を向いてもらって恵方巻きをイッキ食いさせるとふたりは結ばれる」などという都市伝説まで定着し、真に受けた少女たちが本命のイケメン君を羽交い締めにして無理矢理太巻きを喉の奥まで押し込み窒息死させてしまう事件が続発】――などというアホな話を着想したのだが、なんぼなんでもアホすぎるので、ボツ。
 ただし、ボツ判定した後も、未練に脳内反芻しながらエヘラエヘラ笑って歩いていると、さらにアホ度を増した別の短編ネタを着想し、そっちは久々に、ちゃんとした短編にまとめられそうな気がする。
 バレンタインデーに関する個人的怨嗟が、バレンタインデーとは無関係の実を結んだわけである。
 ことほどさように、狸の徘徊は生産的な行為なのである。

          ◇          ◇

 ふとした縁で、読みたい読みたいと思っていた角川ソフィア文庫の『全品現代語訳 法華経』、地元の図書館に所蔵していないので残念がっていたら、これもまた縁なのだろう、いつもの古本屋に並んでいるのを見つけた。新刊に近い美本ゆえ、けして安くはない。それでも定価1200円が800円、学術系の新刊文庫としては御の字の価格である。
 はい、買ってしまいました。何事も縁、ということで、めでたしめでたし。

          ◇          ◇

 昨夜は、ケーブルで録画しておいた洋画『パッセンジャー』(モルテン・ティルドゥム監督、2016年)を鑑賞し、大いに酩酊した。
 SF映画としては、確かにトンデモなのだろう。しかし、宇宙空間を舞台とした純粋な恋愛映画など、映画史上に類を見ない。
 結末のネタバレになってしまうので、一部テキストを反転しておくが、マジに胸がキュンキュンして、男と女のロマンスの経緯にハラハラドキドキして、しまいにゃ「
うんうん、よかったねよかったね。いろいろあったけど、ふたりはほんとに死ぬまでシヤワセな夫婦になれたんだよね」、そんな大ロマンス映画なのである。しかも、背景となる宇宙空間そのものの映像が、すべてのトンデモを古酒の味わいに変えてしまうほどに壮大で美しい。最新3DCGの底力を、ずっぷしと堪能できる。こればかりは、前世紀の映像技術では絶対に為しえない。どんなに巧みなマット・ペインターを総動員しても、アナログでは表現できない大宇宙の旅なのである。
 うるさ型のSF者からは異論もあろうが、個狸的には『2001年・宇宙の旅』や『ブレードランナー』に匹敵するエポック・メーキングなSF映画であると確信する。いや、むしろ映画史上で初めて宇宙空間を舞台に純粋なホラー映画を構築した『エイリアン』、あれと同等の、孤高のジャンル映画か。


02月09日 土  冬の夜に

 アブレ日なので午後まで蒲団にくるまっていたため、起き出した頃には、久々の雪も小降りになってしまっていた。
 雪なんぞ降らないほうがいいわい、とおっしゃる方も世間には多かろうが、北方亜種の狸ゆえ、冬にはどうしても雪が欲しい。
 まあ故郷の実家(もうないけど)のように家中の襖が開きにくくなるほど降られても困ってしまうし、少し離れた山間部のように玄関がまるごと雪に埋もれてしまったら難渋きわまりないわけであるが、数センチやそこいらの積雪では、欲求不満になってしまうのも確かである。
 ともあれ、少しでも路傍の雪が残っているうちに、犬科生物らしく巷を徘徊し、帰穴後は猫科と化して炬燵で丸くなる。

          ◇          ◇

 古本屋で、『和服地 ―実物と解説―』(石崎忠司著・衣生活研究会・昭和44年)などという面白物件を掘り出した。実物と謳うだけあって、解説されている和服地のうち二十数種類ほどは、ちゃんと5×4センチほどの実物が、ちまちまと貼付されているのである。そんな面白物件、しかもほとんど劣化のない美本が100円ポッキリ。超ラッキー。
 その隣には『きものハンドブック』(石崎忠司著・文化出版局・昭和43年)も並んでおり、こちらはハンドブックを謳いつつ、中身は和服の歴史から、具体的な気つけ、たたみ方、着用した際の身のこなし、果ては和裁まで写真入りで解説した専門書。こちらも100円なので、迷わずいっしょにレジに運んだ。
 どちらも100円棚に突っこまれてしまったのにはちゃんと理由があり、元の所有者の姓名が、しっかり記入されている。その姓名と、万年筆の達者な筆跡から、たぶん当時、和装関係の勉強をしていた真面目な女性の所有物であろうと推測される。
 狸が小学校か中学あたりの頃、楚々としたおねいさんが細い指をその布地に触れながら勉強していたお姿など想像すると、狸穴の古炬燵の温もりが、5割増しになったような気がする。
 そのおねいさんも今は老狸よりお歳を召し、そしておそらくは彼岸に居を移されたからこそ、これらの教本が古書店に運ばれたものとも思われるが、それでもやっぱり、炬燵は暖かいのであった。
 ああ、本はやっぱり、触れるモノがいい。
 古書、なおよし。


02月03日 日  季節の中で

 妙に暖かい一日であった。
 明日は春一番がふいてさらに気温が上がり、4月なみの陽気になるそうだ。
 まあ何度も記したことだが、鉄筋コンクリ空調なしの湾岸ロジなんぞは、トラック・バースに近いところの作業に回されたら春一番も堪能できようが、それ以外はキンキンに冷えたままである。
 ともあれ本日、休日の節分。
 処分特価の太巻きも食ったし、鰯の頭もその他の部位ごと腹の中に飾ったし、去年は忘れていた豆もまいた。正確には2〜3粒だけまいて、残りはそのまんま食った。煎餅のオマケの極小袋だったので、残念ながら歳の数には満たなかった。爺いだからね。
 ちなみに「福は内、鬼は外」と囃してはいない。
 福はすでに確保している。まあ自前の脳内麻薬の中にだけなんだけども。
 鬼はまだ確保していないが、鬼のような人間よりは、マジな鬼にドツかれるほうがいい。


02月01日 金  怒髪天

 しかしその野田市教育委員会の関係者とか、その小学校の校長以下その件に関わっていた教職員たち、けしてウスラバカでは就職できないはずの現場で働いていたのだから、自分たちのやっていることが「自分はイジメられたくないので、恐いイジメっ子に命じられるまま、弱いイジメラレっ子の言動を、恐いイジメっ子にチクってました」という、イジメ現場におけるお利口なザコキャラと同じであることを、悟っていなかったはずはないのである。ならば当然、全員懲戒免職にするしかないわけだが、種々の前例を鑑みれば、どうせ減給三ヶ月とか六ヶ月とか、フヤけた処分で終わるに決まっている。うまくシラをきりおおせた職員などは、無傷のままで教育関係者の看板を出し続けるに違いない。
 憎悪で人を半殺しにできるものなら、狸が半殺しにする。

          ◇          ◇

 それでもケツからの出血は快方に向かっている。
 ダイエーの薬品売り場で、高価なボラギノールAとほぼ同等の有効成分を含む座剤が、半値以下で見つかった。効能価格ともに、ドンキの薬局で見かける再安価物件の比ではない。
 古来、薬九層倍という言葉もあることだし、たとえば『救心』とか『六神丸』も、ほんとはずいぶん安値で供給可能なのだろうなあ――などと邪推して調べてみたら、どうも漢方における動物性の原料には、すでに追加調達が難しい、あるいは調達が不可能なので在庫分のみをちまちまと使い続けているものがあり、そこいらのコストダウンが困難らしい。残念。
 しかし化学的に合成できる原料はなんぼでも安価にできるはずだから、たとえばシャブなど、1服100円になってもおかしくない。
 そうなれば貧しい狸も思うさまシャブをキメて、まとめ買いした百均包丁の束を抱えて、野田市教育委員会や職員室・校長室に殴り込みを――。
 ――いやいや、やっぱりドーピングはよろしくない。
 正気を失って、万一女児を傷つけたりしたら、狸は自分で爆発するしかなくなってしまう。