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10月26日 土  雑想

 何年か前の大雨で、狸穴の前の道が川になったことがある。あと30センチも増水すれば、階下の穴居群は床上浸水したはずだ。
 群馬の藤岡にいたときも、茨城の取手にいたときも、その程度の豪雨は経験したが、せいぜい数年に一度の話であった。
 しかし今年の降雨ペースを考えると、そのうち江戸川だって溢れ出しそうな気がする。しまいにゃ全世界で、ノアさんの箱船しか助からない事態が生じそうな気もする。いや、近頃の暴風だと、箱船だって沈没する可能性は高い。
 そんな終末の日に備えて、せいぜい今から悔い改めておこうかと思うが、なにせもうこの歳なので、悔いてるうちに寿命が尽きるのは必定、改める暇なんぞ、ありっこないのよなあ。
 まあいや。地獄のほうがアトラクション多そうだし。

          ◇          ◇
 
 へえ、和服姿に眼鏡はペケなどという、変わった美意識もあるのか。
 江戸時代後期、すでに眼鏡の行商人が江戸市中を回っていたという記録がある。度が合わなくなった眼鏡の、レンズだけ交換してくれたりもしたそうだ。たぶん鋳掛屋さんや羅宇屋さんみたいな感覚ですね。当然、行商人もお客さんも、みんな和服を着てたはずである。
 とゆーわけで、和服に眼鏡、無問題。

          ◇          ◇

     

 あらあら、狸って、やっぱり女性っぽかったんだわ。
 昔から野郎どもより御婦人方が好ましかったのも、きっとそのせいなんだわ。
 これからは、小森のおばちゃまに化けたまんま生きようかしら。ウフ。


10月20日 日  またかよ

 うわ。また雨雲たっぷりの台風が、じわじわと。
 どうやら即位礼正殿の儀の日あたりにかけて、しつこく水を撒きそうである。
 祝賀パレードは延期に決まったし、屋内の儀式に影響はなかろうが、文字どおり『水を差される』感がハンパではない。

 いわゆるネトウヨの一部から、日本列島を襲う天変地異の頻発は現在の皇室が道を誤っているからだ、などという声が聞かれるが、そんな畏れ多い言葉を発した時点で貴様たちは臣民の道を踏み外した逆賊であり貴様たち自身のウスラバカさが天の怒りを招いているのだ、などと腹を立てるほど狸もウスラバカではないので、ただ天地の理に従い、粛々と頭を垂れるばかりである。
 天地の理に情はない。蜂は人の泣きっ面など気にしない。被災者の方々の、不幸中の幸いを願うばかりである。

          ◇          ◇

 何年も前に買いこんでおいた非常用食料が、いつの間にやら消費期限を過ぎていた。
 中でもアルファ米の乾燥牛飯が半年近く過ぎていたので、あわててお湯で戻して食った。
 ……なにこれ、すっげー美味。
 アルファ米を食うのは学生時代以来だが、何十年の間に、ここまで進化していたのですね。前に試した缶詰牛飯より、遙かに炊きたてっぽい。
 今後は飲料水とアルファ米をメインに、天災に備えようと思う。被災時のほうが、ふだんより旨い水が飲めて旨い物が食えるわけである。
 まあ、せいぜい3日ぶん程度の備蓄だし、その前に死んじゃったら食えないんだけどな。

          ◇          ◇

 今週は、楽しみにしていた『太川・蛭子の旅バラ』が、台風被害を考慮して、過去の番組の再放送に差し替わってしまった。
 予告によれば、箱根あたりのローカル鉄道を旅したはずだから、箱根登山鉄道とか、路線によってはモロに流されてしまったわけである。
 放送されるまで、ずいぶん待たねばならんのだろうなあ。
 東日本大震災以降、いっさい再放送されなかった『ローカル路線バスの旅』の東北地方東岸を含む2本、ようやく夏前に再放送されたらしいのだが、なぜかほとんど番宣が流れなかったので、うっかり録り逃してしまった。しかし近頃、また第一回からの再放送が定期的に流れ始め、こんどこそ録画できるだろうと期待していた。ところが、台風19号の被災地もまた、あの2本のルートと大いに重なっているのである。このままだと、再々放送は望めそうもない。
 現地の方々の心が癒えるまで――いや、現在が過去に変わるまで、いったい何年かかるのだろう。

          ◇          ◇

 先般の15号、そして19号、どっちも被災につけこんだ詐欺や空き巣が横行していると聞く。
 もし、その犯人に対する処罰の一切を、狸に任せてもらえるなら――。
 以下略。
 ……いやなに、ちょっと詐欺犯の舌を抜いたり、ちょっと空き巣の四肢を切断したりするだけです。
 人権を考慮して、電動ドリルは用いません。ヤットコとノコギリがあれば充分です。


10月13日 日  這い出す

 昨夜は夜明け近くまで、各局の台風情報を見守りながら胸をざわつかせていたので、本日の目覚めは午後遅くになった。
 主にチェックしていたのはNHKだが、民放でも2〜3の局は独自の各中継地から頑張っており、そっちもザッピングしていた。ただ、民放はどうしてもCMが挟まるたびに、台風情報のテロップさえ流れないウスラバカのようなCMオンリー画面になってしまう。それらの商売物は死ぬまで購買するまいと、狸に決意させるだけの効果しかない。まあ購買しようと思っても、もとより金なんぞないのだけれど。
 で、予想していたとおり、あちこちが次々と水浸しになってゆく。
 情報網の発達と、まだまだ不備とはいえ狸の幼時とは比較にならないほど発達した治水のおかげで、死者が少ないのだけが救いか。

 午後に起き出して、昨日できなかった買い物がてら、江戸川の土手に這い上がってみる。
 かつて見ないほど川幅が広がり、濁流がどうどうと波立ってはいたが、氾濫とは無縁のまま夜を越せたようだ。例の地下神殿――首都圏外郭放水路から流しこまれた水が多いぶん、ちょっとした大雨の後のような下水臭もほとんどない。
 各地で無惨に氾濫してしまった川沿いの方々には申し訳ないが、江戸川を含む利根川水系は、江戸の食糧事情や経済活動を支える生命線であったため、関東平野全域で何百年を費やし、ほぼ全改造に近い治水を施されている。明治維新後の首都圏偏重国政も目に余るが、その遙か昔、家康が江戸開府を決めた時点から、霞ヶ関を中心とした『都心』の優遇は、この国の歴史になってしまっているのだ。

 昨夜のニュースで何度も映し出された荒川の大増水、あれも狸の徘徊テリトリーそのもの、つまり江戸川区や江東区あたりの映像だったため、氾濫はないだろうと確信していた。狩野川台風の時代には、ちょっと増水しただけでも一面水浸しになっていたゼロメートル地帯だが、現在の堤防は、昔の堤防の遙か高所に連なっている。それをさらにテコ入れしたスーパー堤防も要所を護っている。
 そんな東京(正確には千葉県西部だけど)にちゃっかり営巣し、首都のオコボレを食って生きている狸――。
 なんか申し訳ない気分になるが、非力な小動物ゆえ、今さら山野に帰る根性はない。

 ふと思うのは――。
 昨今、故・田中角栄元首相が、一部で再評価されてますよね。
 汚職まみれの土方上がり扱いされて失脚した、あの『日本列島改造論』の総理大臣。
 まあ確かに、国政に私欲を絡めすぎたのは確かだが、あの方が、あのまま日本全国の土方と組んで、私欲を満たしつつ日本全土にインフラをばらまき、田舎者の意地で日本の政治経済機能を地方に分散させていたら――都心だけが無事で周囲の地方は水浸し、みたいな事態は、なんぼかでも避けられたのではないか。

 まあ歴史にIFがない以上、単なる懐旧である。
 せめて狸の故郷に、もうちょっとオコボレがあったら、そっちに営巣できるんだがなあ――そんな虫のいい夢想である。


10月12日 土  蟄居する

 狸も丸っきりの馬鹿ではないから、台風の中を徘徊したりはしない。
 現在夕刻。もし停電あるいは断水すると風呂に入れなくなるので、早めに入浴したばかりである。狸穴の風呂は着火に電気が要るのだ。
 しかし、探食日のみならずアブレ日も数時間は必ず狸穴を空ける習慣なので、昼間っから穴内にうずくまっていると、それだけで脳味噌が酸欠状態になる。絶対に引きこもりにはなれない、生粋のアウトドア狸なのである。などと言いつつ、外に出たって、ウスラボケっとのたくってるだけなんだけどな。

 何日か前、台風19号が接近してきたとき、狩野川台風に似ていると天野様がツイートし、そうなんだよなあ、と狸も不安になった。その後、気象庁までが狩野川台風を例に挙げ、危機的事態であることを訴えてきたときには、なんじゃやら妙な気分になった。夏前に更新した狸の馬鹿話――知る人しか知らない猫耳物件の最新話で、準レギュラーの老バカップルに、狩野川台風の話をさせたばかりなのである。
 昭和33年に1200名以上の犠牲者を出した狩野川台風という台風名は、翌34年の伊勢湾台風(犠牲者なんと5000人超)に圧倒されて、一般世間では、ほとんど聞かれなくなっていた。狸が生まれたのは昭和32年だから、どっちの台風も、もちろん記憶にない。しかし伊勢湾台風の大惨事は、狸が物心ついてからも、遙かに離れた東北の町でさえ、しばしば耳にしていた。いっぽう前年の狩野川台風は、誰の口の端にも上らなかった。狸が長じて化けるようになってから、ちょっとサーカスに化けてみようとボリショイ・サーカスの歴史を図書館でつっついているうちに、その日本初公演が昭和33年であったことを知り、その情報のオマケとして、同じ年の秋にあったとんでもねー台風の名称を、初めて知ったのである。だから猫耳物件の中でも、あくまでボリショイ・サーカスの話題のオマケになっている。
 どのみち単なる偶然とはいえ、感慨深いことに変わりはない。
 この国において、『想定外の自然災害』なんて甘い言葉は、遙か昔から通用しないのである。
 一介の狸の、さほど長くない生涯の中でさえ、巨大地震や巨大台風が何度も生じている。

 グレタちゃんに怒られたら、確かに「ごめん」と謝るのがいい。
 自然を痛めつけるとろくな事がない。
 しかし、昨今の地球温暖化や異常気象を、人類の二酸化炭素排出が原因と決めつけること自体、人類の夜郎自大に過ぎないという学説もある。確かに人間なんぞ一匹もいない時代から、地球は勝手に凍ったり茹だったり、乾いたり水浸しになったりしてきたのだ。
 まあとりあえず、地球をいたわるのと同じくらい、人間にも優しくしとけば間違いないだろう。
 川の土手はもっと盛る――。
 上物はもっと丈夫に建てる――。
 まあそんな感じで、ぼちぼちと。


10月06日 日  もちつく

 ああ、そうだったのか。
 あのゴルフ練習場の、台風で倒れっぱなし巨大フェンス問題、オーナーは70代のお婆ちゃんで、事実上ひとりで経営しているらしい。いやもちろん委託した管理会社とか弁護士さんとかは存在するのだろうが、最終的に矢面に立つ『所有者』は自分ひとり……。
 ……こうなってしまうと、確かに糾弾しにくいわなあ。

 狸もかつての職業上、路面店の『オーナー』と呼ばれる方々とは各地でつきあったわけだが、地元に山ほど土地持ってる実力者から、たまたま街道筋にちんまりと土地持ってたお爺ちゃんまで、その懐具合は様々だった。前者の実力者タイプならともかく、後者の爺ちゃんタイプだったりしたら、全財産はたいたって補償など不可能である。あれだけの損害を賄える保険になんぞ入ってるはずもない。
 ……やはり「どでかい自然災害は恐い」としか言いようがないのか。
 国や地方自治体がなんとかしてくれればいいのだが……期待できんわなあ。こんだけ景気が低迷してても、平気で消費税上げる根性悪の集まりだからなあ。

 などと言いつつ、今のところ狸は、増税の痛みをさほど感じていない。そもそも最低限の食材くらいしか買わないし、外食はほとんどしない。煙草はコーヒーといっしょにコンビニでキャッシュレス決済すれば、かえって安くなった。来年の6月でキャッシュレスポイントが終わりになっても、それまでには最低賃金アップに合わせて日雇い賃金も上がるはずだから、それで吸収できるはずである。行きつけの古本屋の百均棚も、102円棚にはなっていない。
 そもそも消費税が25パーになったってかまわんのだ。それで医療費がタダになるんならな。ヨボヨボになったとき、無料の老人ホームに入れるんならな。

          ◇          ◇

 図書館で、なんかちょっと常軌を逸したファンタジーというかコミックというかイラスト集というか、美麗きわまりない本を見つけた。
『百貨店ワルツ』(マツオヒロミ著・実業之日本社・2016)
 これが、なんつーか、アレなのだ。
 アレって、どれだ。
 えーと、新世紀の高畠華宵?

 描かれる女性の顔やプロポーションは今様ながら、和装のセンスが驚異的にいい。
 正しいだけじゃなく、とにかくいいの。ほんとにいいのよ。おばちゃまが太鼓判押しちゃう。
 などと、狸が何年ぶりかで小森のおばちゃまに変身してしまうほど麗しいのである。
 レトロ・モダンな洋装も上手いが、とにかくここまで麗しい和装の描ける方を、平成以降、狸は知らない。


10月02日 水  キレる

 虐待や無理心中による女児の犠牲が頻発し、狸はキレを抑えるのに懸命である。
 未だ生死の知れぬ美咲ちゃんの件など、行方不明が確実になった直後から、誘拐も想定して、周囲全域で県警が動いていなければおかしい。

 女児に対する性犯罪も、盗撮やお触りから悪辣な加虐まで、いっこうに後を絶たない。加害者は未成年者から後期高齢者まで全年齢層、職業も教職から無職までまんべんなく広がっている。再犯者もハンパなく多い。正味の話、ガキの頃から老いぼれ爺いになるまで、こそこそと犯行を繰り返す輩までいるのだ。
 以前、性犯罪者の更生を扱ったドキュメントで、捕まるたんびに反省しながら、それでもまた捕まってしまう性犯罪者の話を見聞した。万引き常習者と同様、一種の精神疾患と覚しいのである。しかし万引き犯がわしづかむのは単なるモノだが、性犯罪者がわしづかむのは無辜の人間、しかもしばしば、いとけない女児である。

 で、顰蹙覚悟で狸は提言する。
 去勢しろ。

 一度だけなら、懲役で様子見もいい。初犯で己の罪深さを悔い、以後の人生を慎んで全うする人間は少なくない。まあ二度目も、状況によっては懲役で様子を見てやろう。そこはそれ弱き者人間、長い生の内に一度や二度の過ちはあろう。
 しかし三度目となれば、もう人外確定するしかない。
 当然、去勢は徹底的に行わねば意味がない。男根のみならず、睾丸もきっちり始末する。それだけでは反社会的精神が残る恐れがあるから、必要に応じて脳に外科的な処置も施す。

 もしその一切を狸に任せてもらえるなら――。

 人外を縛り上げて猿ぐつわをかませ、又高の机の前に立たせる。ズボンを下ろしてチ●ポとキン●マを引き出し、机の天面に並べる。それからおもむろに大ぶりのハンマーを振りかぶって、イッキに一竿二玉を叩き潰す。一度で潰れなければ、二度三度、力の限りに叩き潰す。人外が悶絶あるいは絶命したら、つつがなく去勢終了。
 しかし中には悶絶後に息を吹き返し、なお悪態を吐いたりする強靱な人外がいるかもしれない。その際は、これ見よがしに電動ドリルのスイッチを入れて、額の真ん中あたりに狙いを定め、ドリルの先が前頭葉に達するまで、ごりごりごりごりと頭蓋骨に穴を――。

 ……ちょっとキレすぎたかもしれない。

 人権擁護にかまびすしい方々の目を考慮して、去勢もロボトミーも、ちゃんと麻酔した上で、粛々と行ってもよろしかろう。
 ただし去勢後、野に放つ際は、片耳の先に切り欠きを入れて、去勢済みであることを明示する。
 野良猫と同じ扱いだから、動物愛護上、なんら問題ないと思われる。