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07月29日 土  土曜の牛の日

 明日は、土用の丑の日である。
 しかし鰻を食う金がない。
 去年はマイナポイントの残り全部を、国産鰻の老舗の高価な真空パックにツッコんだが、今年は何もない。
 いや、市役所から極貧世帯に3万円配るという通知が来たが、入金は8月の末だそうだ。あれってもう3月の末には国会で予算が通ってたんじゃなかったっけ、と思わないでもないが、ただでさえ政権の尻ぬぐいで多忙を極める市役所の方々を、これ以上追いつめるほど狸も鬼ではない。

 中国産の鰻なら、食えないこともない。
 メガドンキの地下あたりでは、ゴジラといっしょに生まれ育ったような超メタボな冷凍鰻を、一尾千円足らずで商っている。似たような大物を幾つにもぶった切って一人前にしている、外食チェーンや弁当店も多いようだ。
 しかし国産鰻になると、どこも倍以上の価格になる。
 専門店で板前さんに調理してもらったら4倍――いや、4倍ならまだ大衆向け価格、モノホンの技だと数千円は下らないだろう。
 狸の太古の記憶に従って、本当に美味い江戸前の老舗なんぞに這いこもうものなら、万札一枚ではすまない。
 ……無理。
 たぶんもう、死ぬまで無理。
 しかし、太古に食った記憶は、確かにあるのである。
 実にまあシヤワセな半生を送ってきたものだと、我ながら感心してしまう。
 だから、残りの半生が極貧で終わろうと、ちゃんと帳尻は合っているのである。

 そんなこんなで、本日土曜を、個人的に『牛の日』にした。
 新聞に挟まっていたスーパーのチラシにも、鰻を食えない貧乏人は輸入牛肉でがまんしろと、遠回しに書いてある。
 アメリカやオーストラリアで育った筋肉質の牛なら、メガドンキあたりではキロあたり千円で購える。
 300グラムのでっけーステーキが、自分で焼けば300円で食えるのである。

 どんな肉でもビフテキさえあれば大金持ちの食卓――。
 本気でそう信じていた、小学生の自分を抱きしめてやりたい。
 で、抱きしめた後はシメ落として、曲馬団に売り払うのである。


07月22日 土  日本の夏、猫耳の夏

 数年前までは、真夏になるとBSやケーブル界隈で盛んに古い怪談映画を流してくれたものだが、近頃はめっきり見かけなくなった。
 これだから世界平和が遠ざかるのである。
 非業の死を遂げた弱者は、すべからく存分に祟らねばならぬ。
 それを忘れると、生きた強者がつけあがって人型の便所虫と化し、金や権力をダダ漏れにして、ますます弱者を迫害する。

 と、ゆーわけで、タマちゃんの出番である。
 久々に、某所に埋めたままにしてある猫耳物件のPVをチェックしてみたら、いつのまにか、またけっこう増えていた。
 猫耳は不滅なのである。

 気をよくしてYOTUBEを漁ってみたら、出色の化け猫映画が見つかった。
 古いモノクロ映画を、わざわざAI着色して放流してくれた方がいるのである。
 おまけに、多くの化け猫映画では黒猫として登場しがちな竜造寺家のタマちゃんが、この映画では、狸好みの三毛猫なのである。AIも気を利かせて、ちゃんと三毛猫に着色している。マジにミケ女王様タイプのタマなのである。
 また、化け猫女優として邦画史上に名高い入江たか子さんが、初めて猫耳を生やして池の鯉をマジ噛みした、記念碑的な作品でもある。

     

 と、ゆーわけで、心ある者は、すべからく居住まいを正して、この名画を観賞しなさい。
 そして鑑賞後、巷で強欲な悪漢輩などを見つけたら、力いっぱい首っ玉に囓りついてやりなさい。
 それはもう、思うさまガップリと噛みちぎってやりなさい。
 天が許さなくとも、狸が許します。


07月15日 土  忘れていた歌

 齢のせいだかなんだか、子供の頃に聞いていたはずの歌詞やメロディーをふと思い出し、しかし曲名や歌手をちっとも思い出せず、煩悶することが多くなった。
 思い出した歌詞の中から、タイトルっぽいフレーズを探して検索をかけても、古すぎるのか、あるいはさほどヒットしなかったのか、なかなか見つからない。
 たとえば、何年か前にようやく探し当てた、和泉雅子さんの『めぐり逢う日は』が典型的な例だった。歌詞の中にタイトルがカケラも入っておらず、また、ネットやYOUTUBEが今ほど膨れあがっていない時代に検索を始めたため、判明するまでずいぶん苦労した記憶がある。

     

 そして今回、安手間仕事中にふと思い出した、確か中学時代だったか高校時代だったか、ラジオで何度も聞いた記憶のある曲――。
 ラジオで何度もかかったくらいだから、けっこうヒットした歌だと思うのだが、タイトルも誰が歌ったのかも思い出せない。レコードを買っていれば当然記憶していただろうが、当時は、気に入った曲を片っ端から購入するなど一介の中高生には不可能だったし、ラジカセすら存在しなかった。いや、存在はしていたのかもしれないが、どのみち購入は不可能だった。
 で、思い出した歌詞の中から、タイトルは『忘れられないの』、あるいは『思い出が多すぎるの』、それとも『思い出が多すぎて』あたりだろうと想像し、ネット検索を始めてみたのだが、近年のヒット曲にも似たようなタイトルがゴロゴロしており、ちっともお目当ての歌にたどりつけない。
 刻苦勉励すること無慮三十年、いや実は三時間程度、ようやくお目当ての歌にたどり着いた。なかなか見つけられなかったのも道理、タイトルを間違えてYOUTUBEに投稿されていたのである。

     

 タイトルは『忘れないの』ではなくて『忘れられないの』、歌っているのは当時『花嫁』や『二人だけの旅』を大ヒットさせていた、はしだのりひことクライマックス。
 狸にとっては超メジャーなフォーク・グループだが、思えばあれから半世紀、もはや一般社会では、和泉雅子さんと同様、昭和レトロなナツメロなんだろうなあ。
 しかし、今回、唐突に脳内で流れ始めた歌い出しのフレーズ、もう今の世界にドンピシャなのよなあ。

          ◇          ◇

 打鍵中の怨霊物件、今月に入って打鍵していたノリノリなシークエンスが、ノリノリすぎて別ジャンルのカー・アクション映画になっているのに気づいてしまった。
 何年か前に木馬物件を打鍵していた時、イキオイにまかせてオートバイのアクション・シーンを投稿し、読者様に「なんぼなんでも、これは違う作品に見えます」と、やんわり指摘されてしまい、あわてて脳味噌をクールダウンして書き直したことがある。
 今回は、未投稿ゆえまだ誰にも指摘されていないわけだが、自分で気づける程度には、狸も賢くなっているのである。

 そんなこんなで、すでに原稿用紙換算500枚を超えて話の半分も終わっていない自作を眺めつつ、なんとか今月中には更新したいものだと願いながら、半煮えの脳味噌を冷蔵庫に入れて、怠惰に寝てしまう今宵の狸です。


07月08日 土  雑想

 高温と多湿が、小揺るぎもせずに続いている。
 狸の毛皮には、ついに黒カビが密生しはじめた。
 着衣の人間に化けることによって、かろうじてカビを隠している。

          ◇          ◇

 昨日、七夕の夜は、残念ながら曇り空で天の川を視認できなかったが、狸は正しい科学的知識を蓄積しているので、徒に悲しんだりしない。
 雲などというものは、どんなに根性が曲がった奴でも、地球の大気圏にしか存在できないのである。
 したがって、天の川あたりは常に晴天である。
 以上の事実から、織姫様と彦星君は今年も無事にデートできたと、科学的に証明できる。
 すでに六十の坂を転がり落ちつつある狸は、あの二人にはすでに曾孫までできているという仮説を有するが、こちらはまだ科学的に証明できていない。

          ◇          ◇

 今夜の『ブラタモリ』も、意外なほど面白かった。まさか栃木の佐野が、厄除け大師とラーメン以外にもあれだけ盛り上がるとは、思ってもみなかった。
 その後、先週録画しておいた、平成中村座の姫路城公演をじっくり観た。七之助さんが富姫を演じる『天守物語』、どうしても若き日の玉三郎さんと比べてしまって、始めのうちはキツく思っていたのだが、中盤以降はすっかり馴染み、ラストではきっちりトリップしきれた。
 やっぱり泉鏡花の戯曲は、宝塚とかのきんきらきん演出より、歌舞伎のほうがトリップできますね。

 で、例によってNHK擁護に走る狸である。

 昔は民放でも、きっちり舞台中継を見せてくれた。
 小学校時代、『黒蜥蜴』(三島由紀夫さんの脚色で、丸山明宏さんが怪盗黒蜥蜴、天知茂さんが明智小五郎をやった舞台ですね)を観た時の酩酊感は、今でも忘れられない。あの頃は、日曜の午後あたりに、民放らしい旬の舞台を見せてくれるレギュラー枠があった。
 大学時代に玉三郎さんの『天守物語』を観たのも、民放の舞台中継だった。これも酔いつぶれてしまうほどのトリップ感だった。その頃になると、さすがに民放の劇場中継レギュラー枠は無くなっていたが、旬の商業演劇は、特番として鳴り物入りで放送されていた。
 ……あ、関西あたりだと、吉本新喜劇は、けっこうレギュラーで流れていたのかな。

 無論現在も、BS界隈なら、NHKでも民放でも、盛んに劇場中継が流れている。新旧の宝塚だって、金さえ払えばなんぼでもテレビ視聴できる。
 しかし、僅かな受信料で歌舞伎中継を観られるのは、NHKのEテレくらいしかない。


07月01日 土  きゅうんきゅうん

 北方亜種の狸には耐え難い気温と湿度が、もう先月下旬から続いている。
 しかし金がないので、到底エアコンなど使えない。

 度重なるウインドウズ・アップデートの嵐の末に、愛用のエディタやMP3再生ソフトが、次々と立ち上がらなくなった。
 こちらは、なんぼ金を積んでも復活しない。最新のハイエンド・パソコンを買っても復活しない。ウインドウズ98の頃から使っているソフトだからである。しかし、先月までは、ちゃんと動いていたのだぞ。

 でもまあ、そんな些末事を嘆いても仕方がない。
 扇風機は使えるし、代わりの無料エディタは几帳面に更新され続けている。
 狸穴付近は洪水の心配もないし、ミサイルが飛んでくるわけでもない。
 狸は間違いなくシヤワセなのである。

 気がかりがあるとすれば、打鍵中の怨霊物件が、なかなか「あとは次回のお楽しみ」に至らず更新できない事だが、きちんと増えてはいるのだから、やはり狸はシヤワセなのである。

          ◇          ◇

 主観的にシヤワセであるかどうかは知らず、客観的にはどこからどう見てもシヤワセそうにしか見えない小動物仲間の動画を、下に貼っておく。

     

 しかし、オコジョであれ狸であれ、野生動物に手を出してはいけない。

 オコジョは見かけによらず凶暴な肉食動物なので、あなたの指くらい、簡単に食いちぎってしまう。

 狸は見かけどおり反骨心のカケラもない小動物なので、「きゅうんきゅうん」などとすすり泣きながら、しつこくあなたにつきまとうおそれがある。
 狸から逃れるには、吉野家で牛丼をおごるしかない。
 マックのダブルチーズバーガーでもいい。