ごかいめ 〜 たかちゃん、ききいっぱつ 〜
はーい、いちおくにせんまんぶんのもうかぞえるのもめんどうなので以下省略のよいこのみなさん、こんにちわー。
いきなりですが、かね、ください。
はい、ぽっけの中の小銭、おさいふの中のおさつ、きゃっしゅかーどとくれじっとかーどとあんしょう番号のメモ、それらのものをのこらずいっさいがっさい、つくえの上にならべてくださいね。
…………。
……おくさんやどろぼうさんや、せんせいが出せといったら、すなおに出すものを出さないと、いたいめをみますよ。このすたんがんやさいるいスプレーが護身用のものだと思われるのなら、それは大きなまちがいです。
はい、そんなにごしんぱいなさらなくとも、だいじょうぶですよ。せんせいも、鬼ではありません。ただ今夜も屋根のあるところで眠るために、お家賃のよんまんごせん円が、ちょっといりようになってしまっただけです。三月《みつき》もとどこおってしまったので、もはや一日のゆうよもありません。それからできれば三びゃく三十円など出していただけると、駅まえのまつやで豚めしがたべられるので、三日ぶりのごはんなどもいただけます。
――はい、きちんと借用書なども、用意しておりますよ。はんこが偽造なので、なんの法的こんきょもありませんが。
はーい、朝からずいぶんすさんだとげとげしい教室になってしまいましたが、人生とは、これほどまでにしびあなものなのです。みなさんが毎日をきちんとよいこでくらしていても、いつなんどき、こうした不測のじたいがおきるか、だれにも予測はできません。
ですから、これから始まるたかちゃんたちのかつやくなども、公園でうっかり『ぶよんとしてしまりのない』いきものの餌食になりそうになったとき、とっても参考になるお話なのですよ。
そうしたとってもためになるお話をしてさしあげるのですから、よんまんごせん三びゃく三十円ていどのはしたがねを、いつまでも気にしていてはいけません。あしたになったら、もうきちんとわすれ去っていてくださいね。
はーい! それではいちおくにせんまんぶんのもうかぞえるのもめんどうなので以下省略のよいこのみなさん、こんにちわー! よいこのお話ルーム、『たかちゃんリターンズ 明日に向かって走れ!』、つづきのはじまりでーす。
――またタイトルがちがう、ですって?
うふ、せんせい、つらい過去の思い出などは、もう雪の津軽海峡に捨ててきました。
★ ★
たかちゃんやくにこちゃんやゆうこちゃんが、ほわほわと、ちょっぴりなさけようしゃなく、あるいはおしとやかに、しばらくじゃんぐるじむやぶらんこで遊んでからベンチにもどると、いっぴきめの『ぶよんとしてしまりのない』うまは、まだかろうじて息をしていました。
もうおなかがぺこぺこのくにこちゃんは、さっそくそのあぶらぎった馬体のわりにはぜい弱なあしくびに、けりをいれます。
「おい、おやつ」
うまはさいごのちからをふりしぼって、よろよろとたちあがります。
たかちゃんはとってもよいこなので、
「かめら、かえすね。ありがとー」
かりたものをおかえしするときには、ちゃあんとおっきなお声で、お礼をいいます。
かりたものが汗でべとべとになっていたり、つばがとんでしまっていたり、そこに土ぼこりがついてあちこちじゃりじゃりしていることなどは、きちんとかえしたのですから些末事です。液晶がめんだって、ずいぶんまだらになったりドット欠けが増殖したりはしているものの、ちゃあんとなにがうつっているかはわかります。
おうまさんはちからなくうなずいて、まるでこの世のすべてを悟りきったような意味もないほほえみをうかべ、すなおに駅前の商店街に引かれていきました。
このまえたかちゃんがたかったマックから、まつややふじやまで、なんでもよりどりみどりです。
「すし!」
くにこちゃんが、いきなりしぶいこのみをしゅちょうしました。こんなときには、さきに大声でしゅちょうした者の勝ちなのです。
たかちゃんは、やっぱしふじやでいちごみるふぃーゆかなあ、とおもっていたのですが、それはいつでもたかれるので、ここははじめてのおきゃくさまのくにこちゃんに、花をもたせます。
「うん、おすしで、いいよ」
ゆうこちゃんはきちんとしつけをされているので、たとえ冷凍のおさかななどという下賎なものはたべたくないとおもっても、ちゃあんと『群れの意識』にしたがいます。
「うん、あたしも、おすし」
ちょうど目のまえに、かいてんするおすしやさんがあったので、なにやらほっとしたお顔のおうまがそっちに行こうとすると、
「いんや、まわるのはだめだ。うそんこのネタばっかりだ」
くにこちゃんが、するどくちぇっくをいれます。ほんとうはいつもひゃくえんかいてんずししか食べさせてもらえないし、それだって家のごはんにくらべれば、ほっぺがおちるほどだいすきなのですが、いっぺんほんもののおすしを食べてみたいと、つねづねゆめみていたのです。ちなみにそのせりふも、こなまいきなぐるめ・あにめのうけうりです。
がんめん蒼白と化したおうまをひきずって、くにこちゃんは、りっぱなお屋根のあるおすしやさんにはいります。
「へーい、らっしゃい。おや、店長さん、お珍しい」
ぎくり、とおうまさんのお顔がひきつります。
――め、面が割れている。
これはけして、たかちゃんたちに好きなものをあたえてなつかせておいて、それからアパートに連れ帰ってあーもしようこーもしようなどと、ふらちな野望をいだいていたからではありません。まあほんとうのところ、こころの奥底はずいぶんくさっているのですが、まえにもいったように、到底それを実行に移す度胸のない、じんちくむがいのおうまなのです。
でも、そんなうまでも、うまというのは仮のすがたなので、ひとなみに『見栄』はあります。
店舗防火管理責任者の講習を、消防署で並んで受けた高級寿司割烹のご主人に、「でもあなたもそのお歳でおひとり身なんだから、一千万や二千万の蓄えはあるでしょう」などと気軽に言われてしまい、ついつい「当然です」みたいなお顔でうなずいてしまった、そんな弱味があるのです。
実は給料の八割方は、冥府魔道のろり関係と撮影機材に費やしてしまう、よって普通口座の残高は給料日前には常にまいなすである、そしてそのまいなすを許してくれる定期預金もしょっちゅう崩しまくりである、そんな現実を今さら告白し、「かっぱ巻きと小鰭《こはだ》と納豆巻きだけにして下さい」などと注文してしまったら、卑小な己の現実を世間に曝してしまいます。
「ほんまぐろおーとろさびぬき!」
くにこちゃんが、ちからいっぱいちゅうもんします。
高級寿司割烹において、その発言がなにをいみしているのか、くにこちゃんにはわかっていません。
「えーと、えんがわのさびぬき! ひらめさんのだよ」
たかちゃんが、これもパパのうけうりでちゅうもんすると、おみせのおじさんがくすくすわらって、
「大丈夫! からす鰈《がれい》なんか、うちじゃあ出しゃしないよ。お嬢ちゃん、わかってるねえ」
「えへへへへー」
おーとろほどの威力ではないにしろ、やっぱり真のいみはわかっていません。
ゆうこちゃんは、じゃあこのまえの日よう日にパパやママやおにいちゃんとぎんざで食べた、あれがおいしかったかなあ、などと、とってもすなおにちゅうもんします。
「……えーと、おーとろさんのあぶり、さびぬきで、おねがいします」
その時点で、おうまはすでに今後ひと月の食生活を、すべてあきらめていました。
すべてがそこしれぬ『時価』で請求されるのなら、そしてどうせ今月の人生は終わっているのなら、もはやすべてを忘れてしまうしか、てだてはありません。
「フグ刺とアンキモを」
こうなったら、じゅうまんでもにじゅうまんでも、せいかつのはたんにちがいはないのです。
「お酒はそこの『朱金泥能代《しゅこんでいのしろ》・醸蒸多知《かむたち》』、グラスでお願いします」
「おう、さすがは店長さん、これに目をつけられるとは」
ほんとうならおうまさんの二か月ぶんの酒代にひってきする、しょうがい口にはできまいと思っていたお酒です。
こうして、たかちゃんたちは、いっぴきめの『ぶよんとしてしまりのない』いきものの、ふつうよきん残高にも、しょうりしたのです。
★ ★
「いやー、くったくった」
そのくにこちゃんのかわゆいおなかぽんぽんにおさまったのはいったい何人の福沢諭吉か、などと、おうまさんはちょっと悩ましげですが、自分でもお酒だけで福沢諭吉をふたりほど飲み干してしまったのですから、もんくをいえたすじあいではありません。
「えんがわさんもうにさんもみーんな、そんでもってたまごやき、おいしかったね。おうちのたまごと、ちがうたまごみたい」
まあ玉《ぎょく》だけで夏目漱石だもんなあ、などと、おうまさんはやっぱり悩ましげですが、せいぜい樋口一葉ひとりと漱石を二.三人しかおなかにおさめなかったたかちゃんは、ひときわ愛しかったりします。
「ごちそうさまでございました」
おしとやかにお礼を言ってくれるゆうこちゃんは、もはや一般市民の経済感覚の範疇外です。でも、かわいらしさも一般市民の概念を超越しているので、おうまさんに遺恨はありません。
そうして、ぶじにおやつ――というより、おうまさんのひと月のエサ代をくいつぶしたたかちゃんたちは、ゆうがたの駅前で、おわかれをします。
「じゃあ、あしたねー」
「おう、またな」
「ごきげんよう」
おうまさんはちょっぴりなごりおしそうに、くにこちゃんやゆうこちゃんを見送ります。
「んじゃ、うま、こんども、おやつな」
おうまさんの腰が引けています。
「こんどは、ケンタがいいな」
おうまさんの腰が、ちょっと戻ります。
「……それでは、おうまさん、ごきげんよろしゅう」
この天使そのものの笑顔と、ふりふりのおじぎ姿のためなら、また定期預金崩してもいいかな、などと、おうまさんはちょっぴり浮気心を起こします。
でも、やっぱり、ちっちゃいお手々をひらひら振って、もういっぽうのちっちゃいお手々を自分の手に繋いでくれている、おなじみのたかちゃんが本妻さんです。
たかちゃんは、またがしがしとおうまの背中によじのぼり、
「おうちだよ、うま」
こっくりうなずいて、すなおにたかちゃんのおうちにむかおうとしたおうまでしたが――ふと、ちょっとおかしな光景が、その目にとまってしまいました。
ちょっと先の交差点で、ゆうこちゃんが、なんだかずいぶんセコい車に、乗りこもうとしています。どう見ても、お嬢様が乗りこんでしかるべき、高級外車ではありません。ビンボなレンタみたいです。
そしてまた、ちょっとはなれた路肩では、くにこちゃんが、路上駐車していたそれなりの車のドアを、けりまくっています。そして、ドアがあいたとたん、その中に乗りこんでしまいました。
おうまさんは、『ぶよんとしてしまりがない』ものの、頭はいちおう雇われ店長がなんとかつとまるていどには人並みです。その二台の車が、どうも公園でずっと気になっていたあやしい車に似ている、そしてそれらの運転席には、『ぶよんとしてしまりのない』見るからにアブない奴らが乗っていた、そんな記憶も蘇りました。自分自身が『ぶよんとしてしまりがなくてアブない』ことは、このさいもんだいではありません。
そしてまた、おうまにまたがったたかちゃんのつぶらな瞳も、それらの光景を、しっかりきゃっちしていました。
「……知ってる人かな」
おうまがしんぱいそうに、たかちゃんにたずねます。
たかちゃんは、ふるふるとくびをふります。
ゆうこちゃんがいつものっているのは、おとうさんのべんつか、おにいさんのふぉーどです。あんなビンボくさい車に乗った知り合いが、いるはずはありません。それにくにこちゃんのおうちには、そもそも自家用車などありません。
――知らないひとのおくるまには、ぜったいのっちゃいけないの。おおかみさんのおくるまだから、やまのなかで、たべられちゃうの。
たかちゃんはとってもかしこいよいこなので、これはとってもアブないかもしんない、そんなはんだんがきちんとできるのです。
「はしれ! うま!」
手綱のかわりに、むしっ、とおうまの髪の毛をむしります。
おうまさんは、ひひいん、とは啼かずに、いっきに全力で出走しました。公園での疲れは、おすしやで一本じゅうまん円もする特別大吟醸酒をグラス二杯ほきゅうしたおかげで、もうふきとんでいました。
まあ、それはあくまでもそんなきぶんであった、というだけのことで、やっぱり胃ぶくろには、きちんと穴があきかけていたんですけどね。
★ ★
さて、そのとき世界のはて青梅の駅前ろおたりいで、なにが起こっていたのでしょう。
それは、こんなできごとでした。
じつは、公園であそんでいるあいだに、宮崎さんちの勤君(仮名)と小林薫(仮名)は、しっかりとゆうこちゃんにねらいをさだめてしまっていたのです。そして、自分たちと同じような『ぶよんとしたしまりのない』みにくいいきものでも、どうやら警戒されずに拉致可能らしい、そんな確信をいだいてしまっていたのです。
そうした事情をかんがえたばあい、その『ぶよんとしてしまりのない』いきものが、たとえおうまのような無害なたいぷだったとしても、やっぱり早めにやきころしたり、みけんにてっぽうだまをぶちこんだりしておいたほうが、無難なのかもしれませんね。
そうして宮崎さんちの勤君(仮名)と小林薫(仮名)は、いかにも既知外やうんこらしい粘着質のしゅうねんで、ゆうこちゃんがひとりになる機会を、ずっとつけねらっていたのです。
みんなと別れたゆうこちゃんは、たまたま小林薫(仮名)の、うんこらしくビンボなレンタのそばを、先に通りかかってしまいました。
「おーい、ゆうこちゃん」
なんてこうかつでいやらしくてひれつきわまりないしょうねのくさったさいていのろくでもないむしけらいかのだきすべききたないふはいしきったうまれてすみませんというじかくすらないはじしらずでちくしょういかでさのばびっちでふぁっくゆーできすまいあすでえんがちょでおまえのかあちゃんでーべそなうんこなのでしょう。なまいきに日本語をはなすだけでなく、あらかじめ車の中から、双眼鏡でゆうこちゃんのらんどせるのお名前まで、こっそりちぇっくしていたのです。
「みうらさんのおうちの、ゆうこちゃんだよね」
そだちがよすぎてひとをうたがうことをしらないゆうこちゃんは、こくこくとうなずいてしまいます。
「おじさん、ゆうこちゃんのパパの、おともだちなんだ。おうちまで、おくっていってあげるよ」
ふだんのゆうこちゃんだったら、そんな底意地の悪い見るからに品性下劣な視線の、社会をなめきったふてぶてしい口もとの排泄物などにだまされたりはしなかったのでしょうけれど、きょうにかぎっては、たまたま『ぶよんとしてしまりのない』いきものに長時間せっしていたため、ついついその『ぶよんとしたしまりのなさ』に、だまされてしまったのです。
でも、天網恢々疎にして漏らさず、別の方向へ帰ろうとしていたくにこちゃんが、たまたまそのビンボなレンタにのりこむゆうこちゃんを、もくげきしていました。
くにこちゃんは六さいにしてすでにじんせいのあらなみをいくつも経験しているので、うんこもにんげんだがやはりうんこっぽいからとてもくさい、そんなけはいを見抜くちからがあります。
でも、もうその車がはっしんしてしまったので、すかさず横に停まっていた別の車のドアに、思いきりけりをいれました。
「あけろ、あけろ」
そして開いた助手席にのりこんで、
「あのくるま、おっかけろ」
運転席にいた、やっぱり『ぶよんとしてしまりのない』いきものは、聞こえているのかいないのか、うつろにふやけたまなざしで、ゆらゆらとうなずきながら、車をはっしんさせます。
――こーゆーショタっぽいショートパンツろりもいいよなあ。
ああ、なんということでしょう。くにこちゃんがけなげにもずうずうしく救いをもとめたその車こそが、宮崎さんちの勤君(仮名)の、ろくに働きもしないで親に買わせたのに自分の世界のものだと誤認識している、とってもアブないお車だったのです。
そして、さらに天網恢々疎にして漏らさず、それらすべてを天性の豊かなイマジネーションというお話のひとのご都合主義で察知してしまったたかちゃんは、果敢にも騎馬でついせきを開始しました。
こうして、それからみっかみばんにわたり青梅市街を恐怖と悲鳴と怒号と炎と血しぶきの巷と化した、壮絶な大追跡が始まったのです! ……ウソですけど。
★ ★
くにこちゃんを乗せた宮崎さんちの勤君(仮名)の車は、最初のうちこそビンボな車を追跡していたものの、次の交差点で、なぜか埼玉方向に曲がってしまいました。
「おい、なにやってんだ、とーへんぼく」
くにこちゃんがやんわりとこうぎすると、
「――僕の部屋で、いっしょにビデオを観ようね」
運転席から、無気力な声が返ります。
「だからあっち!」
「ミンキー・モモ、全部ある。ヤマト、全部ある」
「……なにいってんだ?」
「『うち、ラムだっちゃ』」
そう言ってくにこちゃんをふりむいた『ぶよんとしてしまりのない』顔は、くちびるがまっすぐのまま、目だけで笑っています。
「おまえ、ばかか?」
「キャンディ・キャンディも、全部ある」
「ちっ」
ばかの車に乗ってしまったと悟ったくにこちゃんは、舌打ちして、
「いいよもう。おろせ」
「僕の部屋はいや? じゃあ、お山に行こう」
「だから、とめろよ」
「お山には……お友達も、いるよ?」
やっぱり、目だけで笑っています。
これはもう、にんげんとして、だめだ――。ほんのう的にきけんを察知したくにこちゃんは、
「とうっ!」
いっしゅんのできごとでした。
助手席から両脚を跳ばして、ぶよんとした首を、しっかりと固めます。
そして、おもいきり、ひねりをくわえます。
「でやああっ!」
――これがひっさつくにこちゃんこうげき、じごくのくびがためです。かつてふたりのおとうとをびょういんにおくり、実の父親さえも呼吸こんなんにおとしいれた、今では長岡家の禁じ手として封印されている、危険な実戦技です。
ぼきり。
「ぐえ」
宮崎さんちの勤君(仮名)が、がまがえるのようにうめきます。
そうです。ふだん暗あいお部屋で六千本のビデオに囲まれ、ポテチなどばかり食べているため、カルシウムが決定的に不足していたのです。くにこちゃんかいしんのいちげきに、そんな『ぶよんとしてしまりのない』首の骨は、いっしゅんにして、はずれてしまったのでした。
「ぐえ、ぐえ」
ぶざまにうめき続ける宮崎さんちの勤君(仮名)に、なおもとどめをさし続けるくにこちゃんを乗せたまま、車はガードレールを突き破り、二転三転四転五転、田んぼへの坂をころがりおちます。
あやうし、くにこちゃん!
しかし、くにこちゃんは、そんなことでこの世を去るほど、こんじょーのない幼女ではありません。
転がり続ける車から、
「ていっ!」
猿《ましら》のごとく、小さな影が跳び去ります。
どばしゃ! ぼむ!
車は前半分を田んぼの泥水に突っ込み、同時にえんじんから火を吹きました。
そして、どかああああん! ――とは、なりません。
そんな派手派手な、安易なびじゅある狙いのアクション演出では、悪人があっさり楽になってしまうではありませんか。
はい、えんじんはいったん火をふいたものの、あくまでもじわじわじわと、車のなかをなめるように、炎が燃え広がっていきます。そして、車ぜんたいは、あくまでもじわじわじわじわと、田んぼに沈んで行きます。その中に残された宮崎さんちの勤君(仮名)は、頭をななめ下にするかたちで、ひんまがったシートに腰を固定されております。
うふ、うふふ、うふふふふふふふふ。
こうしておけば、田んぼの泥水でじわじわじわと溺れながら、なおかつ水に浸かっていないお体は、じわじわじわじわと、少しずつ焼けていくではありませんか。
「ぐえ、ぐええ、し、しぬ。ごぼごぼ。熱い。しにたくない。苦しい。冷たい。あぢぢぢぢ。ころしてくれえ。やだやだ。熱い。ごぼごぼ。しぬ。苦しい。しにたくない。あぢごぼぐえ、ころしてごぼごぼ」
まあこのていどのしげきがあれば、既知外でも命の尊さと己の業《ごう》の深さに気づく可能性があるので、てきせつな、そして合理的なショック療法でもあるのですね。
でも、ぶじに坂をはいあがり、じわじわと焼けながら沈んでいく車を蕭然と見下ろすくにこちゃんのお顔には、お話のひとやせんせいのキショクのよさとはうらはらに、ああ、またむえきなせっしょうをしてしまった、そんな寂寥感がただよっています。
「……らいせ《来世》で、しゅぎょう《修行》さっしゃい」
どこでおぼえたのやら、そんな抹香臭いつぶやきをもらしながら、くにこちゃんは静かに合掌します。
南無阿弥陀仏――いっぱんの抹香臭いお年寄りならそう唱えるところですが、くにこちゃんのおうちはだいだい曹洞宗、でも今は座禅ばっかりでおさまりそうななまやさしいしちゅえーしょんでもないみたいなので、ちょっとちがいます。
「おんあぼきゃーべーろしゃのーまかぼだらーまにはんどまじんばらはらばりたやうーん」
おじいちゃんゆずりの、かんぺきな光明真言です。
これできっと、宮崎さんちの勤君(仮名)も、来世で汲み取り便所の横のカマドウマていどには、りっぱにうまれかわれることでしょう。まあ、すぐにふみつぶされてしまうかもしれませんが。
★ ★
はい、ここでちょっと、お話がまきもどりますね。
「はいよー! しるばー!」
だからあたしほんとにいくつやねん、と、たかちゃんはお話のひとにツッコミをいれながら、奥多摩街道を青梅街道方面に向かって驀進しています。
おうまはおうまで、ああ、俺って、可憐なろりを救うために凛々しいろりを乗せて荒野を駆ける白馬、などと、あいかわらず現実逃避にどっぷり浸かっています。
それでもそれなりに何年も実社会を生きてきたので、とちゅうの交番できんきゅう事態への対応をようせいする、そんな気くばりもわすれません。
しかしかなしいかな、おうまはふつうのひとなら自動車を持っていてとうぜんの歳でありながら、ほとんどの収入をろり関係についやしてしまうので、ビンボそうでレンタっぽいグレーの軽、そのくらいまでは表現できても、トヨタのなんであるとかニッサンのあれであるとか、そんな表現はできません。近くで見ていないのでナンバーもわからないし、けっきょく出足が遅れてくにこちゃんの車は見失ってしまい、ひたすらゆうこちゃんを拉致したそのビンボなグレーを追いかけています。
ちなみに通報をうけた交ばんのおまわりさんは、その場にパトカーがなかったので、あわてふためいて本署に指示をあおいでいるだけです。昔日は世界一の警備型警察として日本を世界一安全な国に保っていた警察組織も、現在となっては検挙型警察としての捜査技術を維持するのがやっとの現状です。惨殺死体がどこかで発見されて、そのはんにんのきちくがなんらかのドジをふめば検挙できますが、惨殺死体そのものの発生を食い止める『警備機能』は、もはや鈍ってしまっているのですね。
そんなこんなで、頼もしかるべきパトカーは、今のところ『六歳程度の女児を肩車した小太りの中年男性がその脚で追っているみすぼらしい灰色の軽乗用車』を探して、ようやく奥多摩街道に合流した段階です。非常線などは、事件性が未確認のため、まだ張られておりません。
さいわい市街地にはあちこちあのじゃまくさい信号がありますから、なんとか見失わずに、おうまも走り続けています。でも、市街地を抜けられてしまうと、これはなかなかやっかいなことになってしまいます。
ちなみに車を運転しているうんこは、まだ追われていることをしらないので、このまま郊外のひとめにつかないところにくるまをとめ、もうとうていみなさんのまえでは口にできないような、いやらしくてひれつきわまりないしょうねのくさったさいていのろくでもないむしけらいかのだきすべききたないふはいしきったうまれてすみませんというじかくすらないはじしらずでちくしょういかでさのばびっちでふぁっくゆーできすまいあすでえんがちょでおまえのかあちゃんでーべそなうんこらしい、悪臭ぷんぷんの妄想に耽っています。でも、ゆうこちゃんはほんとうにそだちがよくてひとをうたがうことをしらない、はやい話がいちぶすっこぬけたおじょーさまなので、まだじぶんの貞操に危機が迫っているという事実には、微塵も気づいておりません。
――いかん、これでは、追いつく前に俺の心臓が破れる。
おうまは年に一度のせいじん病よぼう検診をきちんとうけているので、己が過労死すんぜんなのはじかくしています。
前方ななめまえのスーパーの駐輪場で、ママチャリから子供をおろしたばかりの、若奥さんに駆け寄ります。
「わたくし、こーゆー者です」
くわしく説明しているよゆうはありません。いきなり名刺をつきつけて、
「くわしくは交番でよろしく!」
それから、なんで俺わざわざたかちゃんのっけて走ってたんだろうなあ、といまさら気がついて、ひょい、とたかちゃんを肩からおろします。
「ここで待っててね」
「やだもん!」
たかちゃんは、がしがしとママチャリのお子様シートに座りこみます。
もはやたかちゃんを説得しているよゆうもありません。
灰色のビンボは、すでに行く手の坂道の下に隠れようとしています。
「ぬおおおおおおっ!」
――そうですね。自転車にのれるよいこのかたはごぞんじかもしれませんが、下りの長い坂道では、ママチャリでも自動車に追いつける可能性があるのです。まあ、おいついたあとの人生は、ほしょうのかぎりではありませんので、よいこのみなさんは、けしてまねをしてはいけませんよ。わるい子のみなさんは、どんどんまねをして、人類の食料ぶそくのかいしょうに、ちからいっぱい協力してくださいね。
「ひゃっほう! はしれ、ほろばしゃ!」
たかちゃんはもうすっかりハイになって、どんどん世代をさかのぼっているようです。パパ、いえ、おじいちゃんあたりが大むかし白黒てれびをみていたころの、遺伝子きおくがよみがえっているのかもしれませんね。
「♪ ろーれんろーれんろーれん、ろーはーーーいど ♪」
びしっ、びしっ。
さすがにきゃとるどらいぶの牛さんと、おうまさんの区べつはつかないようです。
ぴーぽーぴーぽーぴーぽー。パトカーの音が、やっと後ろから聞こえてきました。
おうまさんはもはやじぶんの脚ではないので、止まるに止まれません。
へたにぶれーきをかけたらママチャリごとすくらっぷ化するのは目に見えているので、やけくそになって、それはもうはてしなく加速します。
「くぬおおおおおおっ!」
びゅん、とママチャリがビンボ軽を追い抜きます。
「やっほー!」
「あれ? たかちゃん?」
助手席のゆうこちゃんは、きょとんとしています。
そして、坂道というものは、おうおうにして、くだりのあとはのぼりになったりしがちです。
追いぬきざまに、ゆうこちゃんにひらひら手を振ったたかちゃんは、そのまんまおうまやママチャリごと、坂道の底からちょっぴり上り坂を発射台にして、ひゅるるるる、と空に向かって飛んで行きます。
「どどんぱっ!」
そうです。『ドドンパ』は、富士急ハイランドの名物コースターでもあるのです。ビンボで遊園地に行けないよいこのみなさんのために、ニュアンスを体感していただくため、ここでキャッチ・コピーなど、ご紹介しましょうね。
はい。
『発射後、わずか一.八秒で時速一七二キロメートルの圧倒的な加速、思わず腰が浮くゼロGフォール、巨大なバンク、垂直上昇、垂直落下のタワー、キミはドドンパに耐えられるか!?』
――こんな感じです。
★ ★
そのご、たかちゃんはぶじにおうまの『ぶよんとしてしまりのない』おなかの上に着地して、ことなきをえました。
おうまさんはあばらぼねを一ぽん折って、二ほんにひびがはいりましたが、いのちに別状はないらしく、俺の一生でもうこれ以上のろり関係の見せ場はあるまい、そんな意気ごみで、ビンボ軽の前に立ちはだかりました。
そして、ビンボ軽を運転していた小林薫(仮名)もまた、じぶんによくにた体型の『ぶよんとしてしまりのない』人影と、はいごからせっきんしてくるパトカーの群れに気がつき、観念してビンボ軽を停めました。
追いついたおまわりさんのなかには、そのうんこの恥ずべきむすうの前科をおぼえているひともあり、そっこく手錠をかけます。
きしょくまんめんのたかちゃん、なんだかよくわからないけどとってもうれしいみたいなゆうこちゃん、そしてとちゅうでパトカーにひろわれたくにこちゃん――なかよし三にんぐみは、がっしりといだきあい、えいえんの友情をちかいあいます。
「どどんぱ!」
「どぱどんど!」
「ど、どど、ぱ?」
それをみまもるおうまさんも、折れたあばらぼねの痛みに耐えながら、まるでほんもののりっぱなおうまのように笑っています。
けいさつのむのうなおまわりさんたちも、ひさびさに犯罪阻止が成功したよろこびで、みんなにこにこ笑っています。
ただ、てじょうをかけられた小林薫(仮名)だけは、あいかわらずほっぺたの上にひきつりができそうなほどしゅうあくな笑いをうかべ、社会をなめきっています。
――どうせちょうえきなんねんかくらって、らくな仕事しながらただめしくらってりゃ、そのうちでてこれるんだ。おれはこどもをなんにんも○したが、まだ○しはしてないんだからな。○してみるのは、その後でもいいんだ。
もちろん、そんないやらしくてひれつきわまりないしょうねのくさったさいていのろくでもないむしけらいかのだきすべききたないふはいしきったうまれてすみませんというじかくすらないはじしらずで以下省略なうんこらしい思考を、おうまさんやおまわりさんたちは気づいているのですが、どうすることもできません。また、そうしたいやらしくてひれつきわまりないしょうねのくさったさいていのろくでもないむしけらいかのだきすべききたないふはいしきったうまれてすみませんというじかくすらないはじしらずで以下省略なうんこがこの世に存在することを、たかちゃんたちに、知ってほしくもないのです。
でも、たかちゃんはとってもおりこうなお子さんなので、大好きなゆうこちゃんみたいな、純真でいちぶぬけたお子さんのために、このたいぷの『ぶよんとしてしまりのない』いきものにはいんどうをわたすべきだ、そんなちょっかんがはたらきます。ちかくにいたおまわりさんにとととととと駆けより、すきをみてお腰のニュー・ナンブ38口径をぬきとり、
「すちゃっ」
くさりがつながったままで、お顔の前にかまえます。
「しけい」
小林薫(仮名)のみけんに銃口をむけて、びしっと、『だーてぃー・はりー』のぽーずです。
さすがのうんこも、なまいきににんげんなみにひやあせなどながします。
でも、たかちゃんがひきがねをひくまえに、おまわりさんが、あわててたかちゃんのあたまの上から、拳銃をひったくります。
「ぶー」
たかちゃんは、おもいっきしほっぺをふくらませます。
おまわりさんは、あんぜんそうちもはずしていないニュー・ナンブ38口径を、さびしげにホルスターにもどします。
「……みけんに、てっぽうだま」
みにくい嘲笑を浮かべ続けている小林薫(仮名)を、たかちゃんがいくら指さしても、おまわりさんたちは、だあれもてっぽうをかまえてはくれません。
おうまさんも、内心ぎりぎりと歯ぎしりをしながら、でも、なんにもできません。
さっきのおまわりさんが、たかちゃんのおつむに、やさしく手をおきます。
「……それは、できないんだよ、おじょうちゃん。みんしゅ国家では、うんこもにんげんなんだ。うんこっぽいだけじゃなく、ほんとうのうんこでも、さいばんでしけいがきまらないかぎり、トイレに流してはいけないんだよ」
くにこちゃんも、たかちゃんの肩に、やさしく手を置きます。
「ざんねんだな。こっちもおれだったら、シメてやったのに」
ゆうこちゃんは、はんべそになって、たかちゃんにすりすりします。
「たかちゃん、ありがと。でも、しかたないもん」
なんだか別のお話しみたいに、しゅんとしてしまっているたかちゃんたちでした。
しかし、そのとき――坂のうえから、ほがらかな声がかかりました。
「おひさしぶりです、たかちゃん」
この脳天気にあかるいお声の主は――そう、バニラダヌキさんです。
たかちゃんがようち園のころのお話のときにも、なんのみゃくらくもなく登場した、小さい狸のような、子犬のような猫のような、洗熊ともレッサーパンダともにている、茶色の毛皮でおなかが白く、目のまわりだけ黒い、なんだかよくわからないどうぶつです。やっぱりあのときみたいに、まるまるとしたおおきなしっぽを、ぽふぽふと振ったりしています。そしてやっぱり、ちっちゃなかわいいバニラシェイクのお屋台を引っぱっています。
「あ、バニラダヌキさん!」
「はい! バニラダヌキですから」
やっぱり会話もきちんとせいりつしません。
からころとお屋台を引いて坂を下りてきたバニラダヌキさんは、ぺこりとたかちゃんにおじぎをします。
「そのせつは、たかちゃんにはたいへんおせわになりました。おかげさまで、わるい親方をこらしめて、いまではバニラの村の仲間も、みんなしあわせに行商しています」
くにこちゃんは、よこから手をだして、バニラダヌキさんのあたまを、ぐりぐりとこねまわします。
「なんだ、これ」
そのまるまるとした大きなしっぽを、さっそくぽふぽふと試しげりしながら、
「うん、なかなか、けりがいのあるやつだ」
「はい! バニラダヌキですから」
ゆうこちゃんは、なんだかおめめをうるうるさせて、バニラダヌキさんのまあるいおなかを、そおっとつっつきます。
「……やわらかわいいの」
「はい! バニラダヌキですから」
ほんとうにちっとも変わっていないようです。
「お話は、坂の上から、おうかがいしました」
くりくりとしたおめめ――よく言えば純真に澄んだ、わるく言えばまったくなーんにもかんがえていないような瞳で、たかちゃんをみあげます。
「たかちゃん、よっく、きいてくださいね。これは、ひとがひとであるために、とってもたいせつなことなのです。――『憎まず』『殺さず』『許しましょう』。――ぼくの大せんぱい、げっこう仮面ダヌキさんのお言葉です」
たかちゃんのこころに、このひとにならあげてもいい、そんなむかしのきもちがよみがえります。でも、おことわりしますが、あげてもいいのは主にじぶんのおやつのことであって、それいじょうでもいかでもありませんよ、ねんのため。
「……うん」
たかちゃんは、こくりとうなずきます。
「たかちゃんなら、わかってくれると信じておりました」
バニラダヌキさんも、こくりとうなずきます。
「でも、ぜひ、あのときのお礼をさせてください」
そういったとたん、ぱ、とバニラダヌキさんの姿が、たかちゃんの前から、お屋台ごと消えてしまいました。
おう! という声が、おまわりさんたちのあいだからあがりました。
そうです。しんしゅつきぼつ、へんげんじざいのバニラダヌキさんは、いつのまにか、お屋台ごと小林薫(仮名)の後ろに、瞬間移動していたのです。
小林薫(仮名)は自分の後ろが見えないので、なにが起こったのかと、きょろきょろとぶざまな間抜け面をあたりに曝しています。
「バニラの村の新はつばいシェイクは、どんなあくにんのこころをも、ぜんにんに変えてしまうのです」
そういってバニラダヌキさんは、お屋台のシェイクの機械から、さきっぽのプスンのところだけをとりはずすと、小林薫(仮名)の脳天に、ちからいっぱい突きたてました。
ずこっ!
びくん、と小林薫(仮名)がけいれんします。
「これこのように、あくにんのあたまに、バニラ村謹製バニラシェイクを注にゅうしますと」
プスンのところにつながったチューブを通って、ピンクいろのおいしそうなシェイクが、小林薫(仮名)のあたまのなかに、じゅるじゅるとながれこんでいきます。すとろべりーでしょうか、それともぴーちでしょうか。
小林薫(仮名)はりょうてりょうあしをつっぱらかして、びくびくと、ぐろてすくにけいれんしています。
「あっというまに、この世の森羅万象を愛してやまない、ほとけさまのような――」
小林薫(仮名)は、これがほとけさまだったらほとけさまとは死んでも会いたくないもんだなあ、そんなありさまで、こっくろーちのちょくげきをうけたごきぶりのように、ばたばたとのたうちまわっています。
三ぷんたっても、十ぷんたっても、いっそとどめをさしてくれ、そんなかんじで、ふくれあがった赤黒い舌をのたくらせ、あわをふいてもだえ苦しんでいます。
「――すみません。しっぱいしました。もうとりかえしはつきません」
バニラダヌキさんは、なんの屈託もないくりくりと澄んだ瞳で、そう言いきりました。
「でも、それでも『憎まず』『殺さず』『許しましょう』、それがたいせつなのです」
たかちゃんやくにこちゃんやゆうこちゃんは、バニラダヌキさんにまけない純真なまなざしで、こくこくとうなずきます。
「それでは、たかちゃん、そしてみなさんも、お元気で」
ぼーぜんとたちすくむおまわりさんたちをしりめに、お屋台を引きながら、バニラダヌキさんはただいっぴき夕陽の中に去っていきます。
「またきてねー!」
「またこいよー!」
「またきてくださいねー!」
なかよしさんにんぐみのかわいいお声が、世界のはて青梅の夕焼け空の下、赤く染まった奥多摩の山々に、いつまでもこだましていました。
♪ 赤はひいいいい夕ふ陽よほおおお 燃ほほへええ落ちてへえええ 海ひほほををを流れてへえええ どこほへえええへ行ふうくうううううう ♪ ――いよっ、渡り鳥! 旭兄ィ! にくいよ! ――まあ、そんなノリだと思ってくださいね。
こうして、たかちゃんたちは、すべての『ぶよんとしてしまりのない』いきものたちにも、なしくずしでしょうりしたのです。
★ ★
はーい、よいこのみなさん、今回のたかちゃんたちのかつやくは、これでおしまいでーす。
おうまさんのあばらぼねが全治したら、またつづきがあるかもしれませんが、とりあえず、これでおしまいでーす。
それから、前回にひきつづき、なにか、ごしつもんや、くじょうがあっても、せんせいはいっさいお答えできませんので、ごりょうしょうくださいね。
前回、せんせいのまごころのこもったきょうはくにもかかわらず、こうちょうせんせいや、おうちのひとや、きょーいくいいんかいにおチクりになったよいこのかたもいらっしゃったようですが、そのあとの、そのよいこたちのほのぐらい内申書や、ひさんな進路などは、みなさん、かぜのうわさで聞いていらっしゃいますね。
うふふふふふ、民○崩れの女教師をなめてかかると、とっても明るいみらいがまっていますよ。
★ おしまい ★
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